【報告】マレーシア・KLで當作靖彦先生によるワークショップと講演会を実施しました
2024.12.19
かめのり財団は、2024年10月11日に行われた国際交流基金クアラルンプール日本文化センター(JFKL)による「中等教育日本語教師キャンプ」および、10月12日に実施されたマレーシア日本国際工科院(MJIIT)・マレーシア日本語教師会(MAJLIS)・JFKLの主催する「第21回マレーシア日本語教育国際研究発表会」に、カリフォルニア大学サンディエゴ校の當作靖彦先生を米国より招聘しました。
報告:かめのり財団
2024年10月11日
国際交流基金クアラルンプール日本文化センター(JFKL)「中等教育日本語教師キャンプ」最終日のワークショップ『未来志向の日本語教育:なぜ・何・どう』
2024年度にかめのり財団が助成を行った「にほんご人フォーラム関連事業」として、JFKLでは「中等教育日本語教師キャンプ」を10月に3日間にわたりクアラルンプール市内で実施し、マレーシアの中等教育機関の日本語教師54名が参加しました。その最終日のプログラムとして、當作靖彦先生によるワークショップが行われました。
この日、當作先生が最初に参加者へ投げかけた問いは、「なぜ」日本語を教えるのかというものでした。今世界は大きな変化の渦中にあり、中等教育における日本語学習の意義も揺らいでいます。その中で、自分たちの教育の目的をどう考えていくべきか、今見直してみようという問いかけです。言語教育には、言語が使えるようになるという機能的な目的だけでなく、その先に、よりよい社会を作り人間を育てるという、より大きな教育的な目的があると、當作先生は強調します。道具としての言語を教えるだけでなく、言語を通して人間力や社会力を養い、人間の成長につなげる、そういうクラスを作るのが教師の役割だというのです。
では、このような未来を予想することが困難な21世紀の社会において、日本語を学ぶ意義を持ち続けるために、日本語教育で「何」を教えるべきなのでしょうか。當作先生は、困難な21世紀を生き抜くためのキーワードとして「つながること」を挙げ、文化の違いを超えて人々とつながる方法を学び、地球市民としての意識を育むことが、外国語教育の役割だと強調しました。
そして、「どう」日本語を教えるかを考える上で、當作先生は、自身が監修・執筆に関わった『外国語教育のめやす』(国際文化フォーラム、2012年発行)に掲げられた学習目標「3領域×3能力+3連繋」の表を示しました(詳細はPDF版P.22参照)。この12の目標をクラスでどのように活用し、発展させるかについて、當作先生は大学で実践した日本語ポッドキャスト制作の例を挙げて説明しました。この実践は、教師が日本語を教えるのではなく、学習者が自ら日本語を使いながら様々な領域について学ぶ方法でした。さらに会場ではグループワークが行われ、この「3領域×3能力+3連繋」を使って教室で実践できることを考えてもらいました。テーマとして「食べ物」や「ブックレットの制作」があげられ、参加者の先生たちはアイデアを出し合いました。
當作先生はこの日、日本語教育を出発点に、これからの教育の在り方について、マレーシアの日本語教師の先生方にもよく理解できる、開かれた言葉で語りかけてくださいました。當作先生の言葉やメッセージは、マレーシアの中等教育で日本語を教える先生方を大いに励まし、ワークショップ終了後には、新たなチャレンジに向けた意欲に溢れた先生方の姿が会場全体に見られました。
2024年10月12日
第21回マレーシア日本語教育国際研究発表会
基調講演「未来志向の日本語教育:人間性・人間力とAI」
続く10月12日は、マレーシア日本国際工科院(MJIIT)、マレーシア日本語教師会(MAJLIS)およびJFKLが主催する「マレーシア日本語教育国際研究発表会」が、MJIITで開催され、當作先生はマレーシア内外から集まった日本語教育者や研究者74名に向けて基調講演を行いました。
この日の講演も、21世紀が激動の時代であり、未来は予測不可能であるという前提から始まりました。そして、未来志向の日本語教育とは、そのような時代を生き抜き、成功する人間を育てるための教育であるという話が展開されました。當作先生は、前日も挙げたキーワード「つながること」が、学習目標の中で最も重要だと位置づけました。言語を通じてつながり、多様な文化を持つ人々とつながり、そしてグローバル社会でつながることこそが、変化を生み出し、世界経済フォーラムが示したような「21世紀のスキル」が育まれる基盤となると語りました。
具体的な教育実践例として、當作先生はパンデミック期にアメリカの大学で行った、日本人高校生向けのオンライン修学旅行の作成事例を紹介しました。この実践では、学生が新しいITツールを活用しながら、「創造力」「ITリテラシー」「共感力」「協働力」などの重要な能力を育み、人間力や社会力を養う学びが実現されたことが示されました。
講演後半では、ここ2年の間に飛躍的に成長を遂げた生成AIに関する話題が中心となりました。AIが教育に与える影響は非常に大きく、今後はAIリテラシーを身に着けることが重要になる一方で、AIができないことやその弱点を理解し、人間独自の能力である創造力、共感力、協働力、モラルなどを育むことが必用だと當作先生は述べました。
AIは人間がこれまで行ってきたことを学習して答えを出すため、一から新しいものを創造する力は持っていません。また、AIは誤情報を出す可能性があるため、人間がその正確性を確認する必要があります。さらに、AIは人間社会のバイアスや差別を反映することがあり、注意が必要です。高度なAIを使用するには費用がかかり、公平性の欠如を招く問題にもなります。當作先生は、AIの限界と特性を明らかにし、AIとどのように向き合っていくべきかを鮮やかに示されました。
3時間に及ぶ講演の中で、當作先生は最新の複雑な世界状況を踏まえながら、言語教育の場において、これからの未来を生きる人間を育てるための心構えと実践のヒントを、分かりやすい日本語で語り続けました。変化する世界を前に誰しもが抱えていた心細さや不安が、確かな希望と安心感へと変わる貴重な時間となりました。
実施概要
中等教育日本語教師キャンプでのワークショップ
演題:未来志向の日本語教育:なぜ・何・どう
講演者:當作靖彦先生(カリフォルニア大学サンディエゴ校名誉教授、日本語教育学会理事)
日時:2024年10月11日(金)14時~17時
会場:Cititel Mid Valley Hotel KLの会議室
出席者:マレーシアの中等教育機関の日本語教師 50名
主催:国際交流基金クアラルンプール日本文化センター(JFKL)
協力:かめのり財団
第21回マレーシア日本語教育国際研究発表会
演題:未来志向の日本語教育:人間性・人間力とAI
講演者:當作靖彦先生(カリフォルニア大学サンディエゴ校名誉教授、日本語教育学会理事)
日時:2024年10月12日(土)9時20分~12時20分
会場:マレーシア日本国際工科院(MJIIT)
出席者:マレーシア、日本および国外からの日本語教師 74名
主催:マレーシア日本国際工科院(MJIIT)、マレーシア日本語教師会(MAJLIS)、国際交流基金クアラルンプール日本文化センター(JFKL)
協力:かめのり財団
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