2024年度採用 3名の大学院留学アジア奨学生をご紹介します

 2024年4月、かめのり財団では新たに3名の大学院留学アジア奨学生を迎えました。未来を見据え、志高く研究に取り組み留学生活を送る新奨学生より、自己紹介のメッセージが届きましたのでご紹介します。

 


 

I Wayan Yuuki  イ ワヤン ユウキ(インドネシア)

立命館大学大学院 スポーツ健康科学研究科身体運動科学領域専攻 博士前期

 

 みなさん、はじめまして、立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科のI Wayan Yuuki と申します。この度は、かめのり財団の奨学生に選出していただき、心から感謝申し上げます。

 

 私はインドネシア共和国出身の留学生で、運動と栄養を用いた認知機能に対する効果検証を行う研究を進めております。今回の自己紹介記事では、インドネシアの魅力と、私が日本へ留学を決意した理由についてお話させていただきます。これは私にとって非常に個人的な話ですが、私の人生観に大きな影響を与えたものですので、ぜひ皆さんにも知っていただきたいです。

 

 まず、インドネシアは東南アジアとオセアニアに跨る、世界最大の島国であり、バリ島(出身地)を含む多くの島々から成り立っています。人口世界第4位、若い平均年齢を背景に経済成長が期待されている国です。しかし、この急速な成長と生活水準の向上は、肥満という新たな課題を生んでいます。インドネシアの保健省の報告によれば、成人の3人に1人が肥満であり、国民の健康は深刻な状況にあります。この肥満は、認知症発症のリスク因子であることも示唆されており、他の健康問題を引き起こす大要因でもあります。さらに、インドネシアは世界人口が多いにも関わらず、日本などの先進国と比較して、国を代表したオリンピック・世界大会に出場している競技選手が少ないのも課題です。このような気づきから、簡便で誰もが取り組める健康あるいは競技力向上ガイドラインの開発の重要性を心から感じ、特に地産地消の「モノ」と「運動」に焦点を当てた取り組みを考案したいと思いました。そのなかでも、認知機能に接点を当てて研究を行うことに重点を置きました。その理由としては、スポーツ現場では、正確で素早い判断が勝負を左右する決定要因となっており、健康現場では、上記でも述べてあるように認知機能の低下は、様々な疾患を誘発することが挙げられます。

 

 その、健康あるいは競技力向上ガイドラインの開発の実現のため、2020年4月に日本への留学を試みました。母国のスポーツと健康課題に貢献し、日本とインドネシア間の共同研究や交流を促進することが私の人生最大の目標です。そして、この夢を追求する過程で、かめのり財団との出会いは、私の目標達成に向けて大きな助けとなりました。まだまだ学ぶべきことは多いですが、自分らしさを大切にしながら、目標に向かって精進していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 


 

甄 卓榮 YUN Cheuk Wing     ケン タクエイ(香港)

筑波大学大学院 人間総合科学学術院教育学学位プログラム 博士後期

 

 現代の世界はおよそ200個の主権国家に分けられており、その現実を若者に受け入れさせる教育が行われています。これは現代の学校がイデオロギー国家装置として機能していると言えます。しかし、人類が直面している戦争、貧困、圧政といった課題を解決するために、国家への問い直し、そして国家という枠を超える発想力が求められています。それを育む教育をどう実現するかが問われています。現在の学校教育を受けている若者には、どのような潜在能力があるのでしょうか。

 

 このような問いを持ち、私は2024年4月に筑波大学教育学学位プログラムに進学し、日本の教育現場を対象に研究を始めました。大学時代から国際政治や人類学などの分野で学んできた私は、実証研究の重要性を感じており、学校教育におけるイデオロギーの研究にも実証的手法が不可欠であると考えています。そのため、2022年に日本の高等学校に導入された新科目「公共」に注目し、その授業現場を中心にフィールドワークを行うという研究方法を検討しています。授業での政治的言説はどのように伝達され、受け止められているかを観察し、生徒の実態を把握していきたいと思います。

 

 中国とイギリスで学生生活を経験した私にとって、日本は他の経験した社会と異なる特徴を持っているように見えます。人々は親切で、生活環境も整っており、とても立派な社会である一方で、独自の課題も抱えているようです。ここまで発展してきた社会の更なる発展や世界全体との連結を求めるなら、何が必要でしょうか。日本の人々はどのように考えているのでしょうか。それを理解しつつ自分の研究を充実させ、世界共通の課題に繋げていきたいと思います。これまでに学んだ知識や理論を日本の現場で活用できることを楽しみにしています。

 

 このような私の願いを支えてくださったかめのり財団に、心より感謝しております。経済的支援だけでなく、様々な分野で活躍している奨学生たちと交流できる機会が設けられ、励まし合いながら共同成長のコミュニティになっています。これからも、この貴重な機会を大切にして、自分ならではの研究を真剣に考え、より良い社会への貢献に繋げていきたいと思います。

 


 

Nguyen Thi Linh グェン ティ リン(ベトナム)

大阪大学大学院 人文学研究科言語文化学専攻 博士後期

 

 私は「日本語指導を必要とするベトナム人児童の日本の学校での体験―ナラティブ・インクワイアリーの手法を用いて」というテーマで研究を行っています。日本では、外国人労働者の受け入れが拡大されており、近年在留外国人労働者数は急増傾向にあります。在留外国人の増加に伴う外国人児童生徒の教育保障は喫緊の課題です。先行研究では、外国人児童生徒を指導する教員は学習指導の他にも、子供たちの生活面や友人関係に関する情報の把握など、様々な場面で困難や迷いを感じているということです。また、言葉の壁や文化の違いなどの理由から、家庭と学校の連携には困難があることがわかっています。この実態から、日本語指導を必要とする外国人児童が日本の小学校環境にどのように適応しているのかを調査する研究が必要であると考えられます。本研究では、日本語指導が必要であるベトナム人児童を対象に、ベトナム人の子供たちが日本の学校生活に適応する体験を明らかにし、ベトナムの子供たちに適した支援方法を提示することを目的とします。

 

 この度は、かめのり財団の大学院留学奨学生として採用していただき、誠にありがとうございます。私は大阪府の小学校でベトナム語サポーターとして働いています。勤務する学校では、家庭の事情から、日本語能力がないまま来日したベトナム人児童がいます。その子供たちにとっては、友達とのコミュニケーションや授業の内容を理解することが相当困難なことです小学校に行った初日、私が帰る時に泣きながら足にしがみついた子供たちがいたことが、忘れられません。恐らく、日本語の環境で、ベトナム人とベトナム語でコミュニケーションを取ることができるのは、ベトナム人児童たちにとって非常に大きな精神的な励みになっているでしょう。日本語能力が不足しているため、日本人の友達のみならず、より日本語が上手なベトナム人同士にもいじめられてしまう子供たちがいます。学校は弱者たちが通常、より困難な経験をする小さな社会です。そして、お互いに共感し理解しあうことでのみ、人々は差別や偏見なしにお互いを助け合う人道的な生活と学習環境を作り上げることができます。

 

 私は博士課程の在籍期間中に、かめのり奨学生として自分自身をベトナム人の子供たちと他国籍の子供たちの架け橋にするために全力を尽くしたいと考えています。私は、子供たちに異なる文化、国家、民族間の相違を理解し受け入れる人間になるよう教育することが、将来的に平和な社会を築く最も短い道であると信じています。また、私は住んでいる地域で文化交流活動に積極的に参加し、人々がベトナムの人々と文化についてより理解するように努めます。マクロのレベルでは、自身の研究を通じて、現在の日本社会における文化の相違から生じる社会問題を解決するための新しい知識を創造したいと考えています。最後に、私はかめのりファミリーの一員であることに非常に感謝しています。私は財団の他のメンバーと共に、誰もが疲れたと感じたときに戻ってくることができる「家」を築きたいと思います。