【抄録】第4回「経過と見通しから、学ぶべきこと・備えるべきこと」/国際交流の新局面 連続セミナー2021
2021.12.26
(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー第4回「経過と見通しから、学ぶべきこと・備えるべきこと」を、12月14日(火)、オンラインで開催しました。第1回から第3回の進行をご担当いただいた川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表)から、総括としてお話を伺いました。
※本抄録における情報は、2021年12月14日時点の状況に基づきます
主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事長 木村 晋介
この度の連続セミナーには、たくさんのご参加をいただきました。皆さまの関心の高さを感じ、ありがたく思っています。第4回は連続セミナーの総括として、当財団のアドバイザーでもある川北 秀人さんから、現状をどう打開していくのかご解説いただきます。皆さまの今後の実践にとって役に立つ日が来ることを強く願っております。
川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)
今回の連続セミナーでは、次のテーマでお話を伺ってきました。
第2回 地域における多文化共生や外国人の就労の「これまで」と「これから」
第3回 国際交流や多文化共生を支援する助成プログラムの「これまで」と「これから」
ご登壇くださった皆さまのお話を踏まえ、「組織と地域を持続可能なものにするために-これまで20年をふりかえり、これから20年に備える-」としてお話したいと思います。近年、「持続可能性」という言葉を目にする機会が増えました。sustainabilityの訳語ですが、本来、sustainabilityが意味するのは、「今まで通り続けられる可能性」ではありません。社会が変化しても今の環境を保ち維持し続けるためには、改善努力や進化が不可欠です。進化するために必要なのは、日本が直面する課題にどう適応するか、事態が深刻化しないようどう予防するか、判断し行動することです。判断と行動のために、「これまで」と「これから」を見ていきましょう。
日本では2つの高齢化が同時に進んでいます。1つは、インフラ・ハコモノの高齢化です。法定耐用年数の50年を超えるインフラは、今後も増加していきます。インフラやハコモノという生活基盤の更新は、人の命と暮らしを守ることに直結しますが、社会環境が変化する今、前例踏襲では対応できません。認識しなければならないのが、かつてとは異なり、日本はすでに30年にわたって経済成長が止まり、世界での存在感も下がり続けているということです。日本のGDPの世界シェアは、約2割だった1994年を頂点に、2020年は6%弱まで下がっています。また自動車保有台数(千人あたり)を見ても、2010年から2030年にかけて、世界の主要国で減るのは日本だけ。伸びがあったころの幻想のままでは、「これから」に対応できません。進化が不可欠です。
もう1つの高齢化は、人の高齢化です。日本の高齢化は「第2幕」に入ったと言える状況です。年齢別に見ると、これまで増加してきた前期高齢者(65〜69歳、70〜74歳)が減少を始めています。前期高齢者は要介護比率が低く、町内会長や民生委員を担うなど、まちづくりの中心的な存在でした。反対に増え続けるのが、要介護比率の高い85才以上です。
さらに深刻なのが、小家族化です。全世帯のうち、すでに4割近くが独居となっています。昭和の終わりまでは全世帯で最も多いのは4人暮らしで、これを核家族と呼んでいました。しかし平成に入ると、小家族化がさらに進行し、2010年にはとうとう、一人暮らし世帯が最多になり、現在もまだ増え続けています。では、2040年までに社会はどうなるか。人口が1億2千万人 から1億1千万人に減るなか、85歳以上は2倍近くにまで増え、2035年以降は1千万人を超えます。今は7軒に1軒である空き家も、2040年には4軒に1軒に。暮らしは大きく変化していきます。
1995年と2015年の年齢別の就業率を比較すると、女性の就業率がほぼすべての年齢層で上がっています。とりわけ30〜34歳は19%上昇し、今では7割の人が働いています。ところが、子ども会やPTAは専業主婦が多かった時代を引き継いだまま。留学生を受け入れるホストファミリーも、日中に誰かが在宅している前提での募集は難しい状況です。業種別に見ると、製造業や流通業の従事者が減る一方で、医療福祉が男女ともに増加しています。今、医療福祉は日本で最も多くの人が働く業種です。しかし今後、85歳以上の方が倍増するのに対し、医療福祉従事者を倍増させられるでしょうか。介護予防の取り組みを徹底するとともに、介護を担う外国人の受け入れを増やす必要があります。
日本人と外国人の増減を、都道府県別に見ていきます。2010から2020年までの10年間で、全国で日本人は3%減り、外国人は45%増えました。グラフ中の左上の象限は、日本人が全国平均より減少し、外国人が全国平均より増加している都道府県です。日本人の状況がより厳しくなり、外国人の力を借りているところだと言えるでしょう。北海道、熊本、島根、宮崎、佐賀、鹿児島などが該当します。
さらに市区町村単位で見ると、今、外国人が増えているのは都市部ではないことが明らかになります。国際交流協会のない自治体も多いでしょう。高齢化や人口減少など課題が山積するこれらの地域では、多文化共生に自治体が単独で取り組むのは難しいと思われます。本気で進めるには、たとえば「●●県北部多文化共生センター」のように、新しいタイプの国際交流協会が必要です。今や、国際交流のフロンティアは、都心部での交流ではありません。国際交流を推進する機関がない、主に農山漁村部において、切実に起きている問題への対応です。
全国各地で人口が減っても温かさが衰えない地域の共通点は、「人交密度」が高い、すなわち人間関係が豊かであること。かつて家内制手工業や農業のように家族で仕事をする暮らしでは、子育てや介護が家族内で完結しました。そこで家族を超えたつながりを保つため作られたのが、お祭リなどのイベントでした。しかし一人暮らしが増加した今、大事なのは、イベントよりも支え合いです。先駆的な地域では、地域づくりを行事主導から事業主導へとシフトさせる動きがすでに始まっています。
現状維持と前例踏襲が続く地域から、若者は抜けていきました。結果として、その穴を外国人技能実習生が埋めています。今、地域は、外国から来て日本に根ざして働く方が安心して暮らし続けられる未来づくりを、真剣に考えるときを迎えています。従来型の価値観や環境を上書きしていかなければなりません。
Q:東京都武蔵野市で、外国人にも投票を認める住民投票条例案が審議されていますが、反対運動も激しくなっています。外国人の社会参画に関する制度について、どうお考えになりますか。
川北:今、世界的に自国産業を守るとの名目で保護主義が力を強め、排他的な考え方も拡がってしまっています。歴史を振り返ると低成長期に起きやすく、グリーンイノベーションなど持続可能な経済成長に向けて適切な改善が見られれば落ち着いていくと思います。外国人住民の意見を聞く機会は、特に一定数の方が住み続けてきた地域において、円卓会議のような形で設けている例があります。一方で、その構成のバランスも難しいため、住民投票のように制度での保証の検討も重要です。少しずつしか動き出せないかもしれませんが、こういった試みは、これからも増えていくと思います。
Q:ボランティア団体が団結して政治を動かし、外国人が暮らしやすい地域を作れないでしょうか。
川北:その前提として、地域づくりの前例を踏襲するのではなく、ポジティブに上書きしていくこと、その姿を20〜30代に見せていくことが大事だと考えます。労働分配率が下がり、格差の拡大が止まらない今、それでも文句を言えずに先輩を立てるカルチャーで押し込められている若者の現状があります。まずは、行政の領域ではない、地域自治のあり方の見直しから入ること。自治会の負担を下げてあり方が変わっていけば、若者が活動しやすくなり、暮らしの変化に適応して地域の進化も進むと思います。
Q:地域課題の深刻化に対し、都市部では危機感を持ちにくいと感じます。
川北:危機感を持ちにくい一方で、状況は深刻です。東京や大阪の高齢化は、たしかに全国平均より遅れてやっています。しかし、もともと世帯人数が少なく、これからは高齢化に加えて独居高齢者の増加が、同時進行するのです。高齢者、特に後期高齢者の一人暮らしが一気に増え、都心部特有の課題が深刻化します。マンションの管理を外国人が担うなど、コミュニティを支えるところから力を借りることになるでしょう。大阪では地域活性化協議会ができて、旧来の自治会活動を上書きしはじめています。
最後に、川北氏は「今回の連続セミナーを通じて、国際交流は今、3つのフロンティアに直面していることを認識した。1つめは、人と活動だけでなく、地域と組織も応援する必要があること。2つめは、外国人当事者に地域での活動を促したり、留学を逃した若者にチャンスを設けたりするように、機会の多様さを進化させていくこと。そして3つめは保護主義に対応できる人材を予防的に育てていくことだ」と話しました。
コロナ禍をきっかけに国際交流のパラダイムシフトが起きていると感じます。国際交流は人的移動を伴う交流に限られたものではなく、国内や地域内で関わりあうことや、地球上でいかにともに生きていくかを考えることも重要であると気づきました。かめのり財団としては今回、足下の課題をどのように支援していくか、問題提起をいただきました。行動を通じて予防と適応をしていけるよう進化していきたいと思いますので、皆さま今後ともご協力のほど、何卒よろしくお願いいたします。
抄録執筆:近藤圭子