国際交流基金マニラ日本文化センターとの共催で、2024年11月27日~29日にかけて「Feel Bohol!Discover the future!」をテーマに「にほんご人フォーラム2024 2.0」をフィリピンボホール島にて実施しました。現地の日本語専門家による実施報告レポートをお届けします。
報告:国際交流基金マニラ日本文化センター
日本語専門家 関山 聡之
青い海と緑豊かな大地が広がる美しいボホール島を舞台に、「Feel Bohol! Discover the Future!」をテーマとした「にほんご人フォーラム2024 2.0」が開催されました。
ボホール島は自然やリゾート地として有名ですが、知的障がい者の社会参加、観光産業の影響、生態系の保護、伝統文化の継承、自然災害、海洋汚染など、さまざまな社会課題を抱えています。これらはボホール島だけの問題ではなく、私たちの暮らす世界にも共通する課題です。まさに、ボホール島は現代社会の縮図といえるでしょう。
本フォーラムは、こうした課題を生徒たちが深く学び、自ら考える場を提供することを目的としています。このテーマには、ボホール島での学びを通じて「誰もが生きやすい未来」を共に考えるきっかけをつくりたいという願いが込められています。それでは、今回のフォーラム中の出来事をいくつか紹介させていただこうと思います。
フィリピンでは福祉就労施設がなく、特別支援学校を卒業した知的障がい者の社会参加や経済活動の道が閉ざされています。初日に訪問した「BABITA HOUSE」は、そんな彼らにとって大切な居場所です。この施設は約8年前、フィリピンの特別支援学校で活動していた日本人によって設立されました。
知的障がい者の方々は、好きなときに施設に通い、アヒルやニワトリ、ウサギの飼育、野菜の栽培、土産物の製作など、さまざまな活動に取り組んでいます。
訪問の際は、まず障がい者の方々に施設を案内していただきました。広い敷地内には小動物の飼育舎や「和」をイメージした母屋、池や庭などがあり、すべて手作りという点に驚かされました。その後、施設周辺で一緒に清掃活動を行いました。3カ月前にもゴミ拾いをしたそうですが、路上には数多くのペットボトルやお菓子の袋などが落ちていました。持っていった大きな袋には、ゴミがポンポンと入れられていきました。
清掃活動の後は、施設独自の経済システム「BABITAシステム」を体験しました。清掃などの労働の対価として金券がもらえ、その金券でキーホルダーやシールなどのグッズと交換できる仕組みです。生徒たちも楽しみながらこのシステムを体験していました。
また、万年カレンダーやビーズのブレスレット作りにも挑戦しました。これらの準備は障がい者の方々がしてくださり、生徒たちは温かい雰囲気の中で楽しい時間を過ごしました。
気がつくと空が暗くなり、障がい者の方々が家族に迎えられて帰る時間になりました。そのとき、ある方が「みんながいるから、まだ帰りたくない」と家族に伝えていたのがとても印象的でした。障がい者の方々の温かい心に触れ、忘れられない一日となりました。
21世紀型スキルという言葉をよく耳にしますが、私たちもイベントを企画する際、「この活動をどのような手順で行えば、どんなスキルが身につくのか」といったことを考えます。大人目線や教師目線で「生徒たちは何ができるのか、何ができるようになれば良いのか」と。
2日目には、絶滅危惧種である世界一小さいメガネザルと言われる「ターシャ」を保護する施設「ターシャ・サンクチュアリ」を訪問しました。ターシャは密猟や違法売買の被害が絶えない現状があり、今回は保護施設の代表の方にインタビューする貴重な機会をいただきました。
同施設の代表の方はボホール地方の言語(ボホラノ語)で話されるため、セブ島やレイテ島など同じフィリピン中部出身の教師には、事前に通訳をお願いしていました。ところが、予想外のことが起こりました。なんと、こちらから何も指示をしていないのに、ある生徒が自発的に代表の話した内容や他の生徒の発言をその場で通訳してくれたのです。
この出来事には、本当に驚かされました。全く予想していなかった展開で、うれしい誤算でした。毎回、私たち大人は子どもたちの可能性に驚かされます。生徒たちのスキル、本当にすごいと思いませんか。20世紀生まれの私たちが、21世紀生まれの彼らの能力と行動力に感心した一幕でした。
その後、生徒たちは4つの班に分かれ、それぞれ観光産業の影響、伝統文化の継承、自然災害、海洋汚染といったテーマに関連する施設を訪問しました。そして最終日には、生徒たちがそれぞれの訪問先で学んだことを「演劇」という形で表現しました。
私たちが事前に用意したものは、A0サイズの黄色い模造紙と、マーカーやハサミなどの文房具くらいだったと思います。それでも、生徒たちは驚くほど想像力豊かで面白い作品を作り上げてくれました。その創造力には本当に感心させられました。
ボホールでのフォーラム終了から約1カ月半後、ポストフォーラムを実施しました。生徒たちには「自分たちの町をよくするためのアクションプラン」を発表する課題が課されていました。しかし、一部の生徒たちはそれ以上の行動を起こしていました。BABITA HOUSEで体験したゴミ拾い活動をヒントに、全校生徒を巻き込んで学校内でゴミ拾いを実践したそうです。
私は、大きな問題というのは、小さな問題が積み重なって生まれてしまうものだと思います。一方で、小さな動きが大きな動きを作り出すことができるとも信じています。
ゴミ問題をはじめとするさまざまな社会問題の根源は、私たち一人ひとりの意識にあるのではないでしょうか。自分の部屋、学校、そして近所をよくしようと行動する若い人たちが増えれば、きっと“誰もが生きやすい未来“が築けると思いませんか。
【実施概要】
実施期間 | 2024年11月27日(水)~29日(金) |
場 所 | フィリピン ボホール島 |
テーマ | Feel Bohol!Discover the future! |
参加者 | フィリピン人生徒:6 校12 名(Grade8:1名、Grade9:4 名、Grade10:7名) |