奨学生 5月の月次レポートを掲載しました
2023.06.07
かめのり財団が支援する大学院留学アジア奨学生は、研究の進捗状況と生活についての報告レポートを毎月提出しています。ウェブサイトには毎月、2名のレポートを掲載します。
かめのり大学院留学アジア奨学生
月次報告レポート(2023年5月)
お茶の水女子大学大学院・比較社会文化学専攻
博士1年 曹怡(ソウ イ)
ゴールデンウィークからはじまったこの月は、今まであまり触れたことのない専門の本と共に過ごしていた。
先月美術史専門の先生からおすすめいただいた「唐物」に関する何冊の本を読んだ。色々な先生方の先行研究が収められているため、今の最新の学術動向を把握できた。いわゆる「国風文化」はどう理解するか、「唐物」とは何かについて、ときどき真逆の論議が生じられる。その中で、当時はたくさんの中国や朝鮮から運び込まれた舶載品が、東アジア間の交流を促し、文化がカラフルに形成された、とのことは共通認識であろう。特に、比較受容史な視点で、中国絵画が、高麗、ベトナム、ないし中東、ヨーロッパまで影響を及ぼしたのは印象深い。また、十四世紀以降、日本の「擬唐物鏡」が本家の中国を含むアジアの諸地域に受容されたという事例に感銘深く、そのような逆方向の文化受容がこれからの研究においても注目に値すると思う。
なお、水墨画について、何冊古い解説的な本を読み、禅僧たちが画讃を記した詩画軸の作品を鑑賞し、当時の彼らの学問に対する求知心と飄然たる心境が、まさに自分の今月の気持ちに相応しいものだと感嘆した。そのような水墨画の世界に入り込むことで、気持ちが落ち着く。
その他、今月は幾つものイベントに参加した。
まずは、伝統芸能の授業で、初めて国立劇場で文楽を鑑賞した。「菅原伝授手習鑑」という作品については、感慨深いものである。菅原道真の話には以前から知っていたが、伝統芸能において初めてこの名作に触れた。鑑賞前に話の筋を予習し、再度創作時の想像力に感心した。新たに庶民の実生活味が溢れる梅丸、松丸、桜丸の三兄弟の内容が加わり、彼らの展開についてストーリー全体の起承転結がまとめられ、人物の気持ちが奥深くまで掘り下げられていた。もう一つ心惹かれたのは、パフォーマンスについてである。役ごとの協力がすごく大事で、文楽は、太夫、三味線、人形の三業一体の技芸であるため、音によってセリフが盛り込まれ、日々の稽古の中で阿吽の呼吸としてパフォーマンスに溶け込んだのである。今回私はこれらを通して、存分に日本の伝統芸能を楽しんだ。
なお、今月は初めて対面で中世文学会の大会に参加した。今まで先行文献で拝読した先生方に初めて対面で会うことに緊張した。非常に素晴らしい発表を聞き、色々勉強になった。自分の研究にも気合を入れ、いつか今回の先輩方のような学術発表を目指している。
さらに、出光美術館で催された「茶の湯の床飾り−茶席をかざる書画」という展覧会を見に行った。茶の湯における床飾りは室町時代の足利将軍家の書院飾りから始まり、また、茶禅一味の思想から墨跡が第一とされる。牧谿や玉澗など宋元時代の絵画作品から、武野紹歐が和歌の美意識を茶の湯に取り込んだことにより、和歌色紙などの和物の掛け物まで、幅広い展覧品を満喫できた。自分の研究内容に関係づけられ、非常に勉強になった。ロビーの窓から皇居の緑あふれる景色も眺めることができ、のんびりと時間を過ごした。
これらの出来事が勉強の糧になり、来月は先行研究などを踏まえた上で、論文を進めたいと思う。
かめのり大学院留学アジア奨学生
月次報告レポート(2023年5月)
立教大学大学院社会学研究科社会学専攻
博士後期課程(D1) 具 弦俊 (グ ヒョンジュン)
1.研究について
5月は、ゴールデンウイークなどを口実に、研究で多くの進展はなかったが、指導教員の先生からご紹介やご推薦をいただき、外部のゼミや研究会に参加することができた。そこで、先生と先輩・後輩の研究計画や研究ノートなどを拝見することができ、自分の見識を広げる良い機会となった。そして、長い時間ではなかったが、少しでも先生らと自分の論文や研究関心についてお話ができ、それについてアドバイスをいただくことができたため、今後の研究の方向性について再考するきっかけとなった。とりわけ、自分が最も不足していると思っている分析方法や統計知識などに関しては、参考になり得るさまざまな書籍を紹介していただいたので、今後それらを探読することで、自分の研究リテラシーを伸ばしていきたいと思っている。また、自分の研究関心とも密接な社会調査や研究会などに参加できる良い機会をいただいたため、それらに積極的に参加して色々学んでいきたい。
最近、入会している学会で大会の日程が公開され、発表の申請を受け付けているため、大会に参加できるよう、発表の準備に邁進している。指導教員の先生がおっしゃるとおり、新しい研究とテーマを用意するよりは、自分が修士課程で作成した修士論文をもとに、それを発展していく方向で準備している。今になって自分の修士論文を見ると、修正が必要な箇所が多数存在しているが、むしろそれらを修正および補完する過程で新しく学べることが多いと考えられる。そのため、現在としては博士論文を作成にすぐ入るよりは、自分の修士論文にもとづいた論文を作成し、諸学会誌への投稿ができるよう努めていきたい。
2.生活について
最近では、自分のコミュニケーションや日本語の未熟さから、教え方が非常に下手であることを実感している。そのため、教える仕事(学校でのTAや塾講師など)に就いて経験を増やしていくことで、このような短所を克服しようと思っている。もちろん、現在の自分が集中しなければならないのは研究という点はよく知っているので、こうした労働時間が主客転倒にならないよう、常に時間管理を徹底している。一方、最近英会話にも興味が湧き、学校での講習などに参加しているが、これまでの英語学習の経験の多くは読解や聴解だったため、英語での発話に苦労している。だが、ある程度英語で会話ができ、お互いの考えを理解できたときにはすごく嬉しい。英語を話せるという点は、単に生活の面だけでなく、自分の研究や将来性の面でも競争力を高められる長所になると考えられるため、これからもどんどん英会話の機会を増やしていきたいと思っている。