【抄録】第2回 都心部における新しい国際交流・多文化共生事例/高齢化・人口減少の加速化に備える持続可能な地域づくりと、 国際交流・多文化共生のこれから 連続セミナー2024

(公財)かめのり財団は、連続セミナー2024の第2回「都心部における新しい国際交流・多文化共生事例」を、2024年6月17日(月)、オンラインで開催しました。栗林 知絵子 氏(豊島子どもWAKUWAKUネットワーク)、宮城 潤 氏(地域サポートわかさ)をお招きし、川北 秀人 氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)の進行で、お話を伺いました。

 


主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 常務理事 西田 浩子

 

 第1回のセミナーでは、外国人が「生涯くらしたい」と思える地域・社会を作らなければ、日本は近い将来、危機的な状況に陥ると感じました。外国人が「ずっと住み続けたい」と思える地域になるには、どうすればいいのか、今回は都市部での多文化共生の活動事例をご紹介いただきます。

 

進行 川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)

 

 都心部と農山漁村部では、外国人の方々を取り巻く背景は異なります。都心部では、国際交流に限らず多様な団体が子ども支援や高齢者支援などを行っており、団体は活動を通じて外国人と接点を持つことがあります。今回は、都心部での活動の対象を、外国人を含む多様な方々へと開いていった事例をご紹介いただきます。

 

講義① 栗林 知絵子 氏(認定特定非営利活動法人豊島こどもWAKUWAKUネットワーク 理事長)

 

 豊島子どもWAKUWAKUネットワークは、地域住民が緩やかにつながって困難を抱える子どもたちに居場所をつくり、「おせっかい」をしていこうと、2012年に始まった団体です。

 

 私たちが活動する東京都豊島区は、外国にルーツのある方々が人口の11.7%を占めます。しかし公立の国際交流センターはありません。区内には小学校22校、中学校8校がありますが、そのうち日本語教室があるのは小学校2校、日本語指導員が配置されているのも小学校2校、中学校1校のみです。

 

東京都豊島区は、人口29.4万人のうち、外国人住民は3.4万人(11.7%)

 

 私の子どもも豊島区で育ちましたが、外国ルーツのお友達と接する限りでは、お友達が困っているとは気づきませんでした。ところが私が無料学習支援を始めると、それを聞いた元担任の先生がお手紙をくださったのです。外国ルーツの子どもが日本語教室だけでは学習が足りず、勉強に遅れてしまう現状を知り、以来、外国ルーツの子も日本人の子も分け隔てなく受け入れています。

 

 私たちの活動を支えるのは、区内全域に約300名いる「おせっかいさん(ボランティア)」です。おせっかいさんは学習支援やプレーパーク、子ども食堂に参加し、子どもや保護者と会話するなかで困りごとが聞かれたとき、おせっかいをしています。外国ルーツの子どもたちも、小さいころから私たちと一緒に地域のお祭りなどに参加し、いろんなコミュニティにつながっています。

 

無料学習支援には現在約20名が参加しており、外国にルーツがある子はそのうち12~13名

 

 乳幼児のいる家庭を地域ボランティアが訪問する取り組みも、外国にルーツのある家庭が利用しています。コロナ禍のとき、海外にいる親戚が来日して育児を手伝うことはできませんでした。そのため、私たちはやさしい日本語を学び、外国ルーツの家庭を訪問するようになりました。コロナ禍では、食糧支援にも外国ルーツの方がたくさん来られたので、やさしい日本語で対応しています。

 

 また、豊島区には、シャンティ国際ボランティア会、東京パブリック法律事務所、豊島区社会福祉協議会による「としまる(TOSHIMA Multicultural Support)」というネットワークがあり、外国人の生活支援や相談支援を行っています。子どものいる外国ルーツの家庭から相談があったときは、私たちにつなげていただくなど、連携して支援しています。

 

乳幼児子育て家庭への無料訪問支援「ホームスタート・わくわく」では、
2019年1家庭、2020年4家庭、2021年2家庭の外国ルーツ家庭の利用があった。
病院での問診票記入や子育て広場への同行などでサポート

 

食糧支援の「としまフードサポートプロジェクト」では、利用者約600世帯のうち、
約50~60世帯が外国にルーツがある家庭

 

 私たちは、2020年に東京都が指定する居住支援法人となり、引っ越しのサポートなど住まいに関する支援に取り組んできました。この事業を通じ、外国にルーツのある方が、様々な住まいの困難に直面することを知りました。物件の探し方や、引っ越した後の電気やガスなど手続き関係にも壁があります。これらに伴走して支援を行うと信頼関係が生まれ、いろんな相談をいただくようになるので、「としまる」や適切な支援団体につないでいます。

 

隣人による伴走支援(=おせっかい)を広げ、子どもたちのセーフティネットを作る

 

 2024年からは、地域住民が中心となって、日本語教育の仕組みそのものを変えていこうとする取り組み「みんなでつくろう!としまのこどもたちの日本語教育」を開始。さらなるおせっかいを始めました。

 

 私たちが関わってきた外国ルーツの子どもたちは、今、成長して町の担い手になっています。人は、大切にされる経験がなければ、地域のために頑張ろうという気持ちにはなれません。どんな子どももどんな家庭も孤立しない関係を実現し、これからも持続可能な街を作っていきたいと思います。

 

講義② 宮城 潤 氏(特定非営利活動法人地域サポートわかさ事務局長・那覇市若狭公民館館長)

 

 

 沖縄県那覇市の若狭地域は、琉球王朝時代から海の玄関口として栄えた街です。戦後、米軍が土地を接収したことで従来のコミュニティが解体され、解放後に新しい住民が入ってきました。自治会・町内会の加入率は約10%と低く、一方で生活保護率は約6%と高くなっています。歓楽街であり、夜間保育園や母子世帯が多いのも特徴です。若狭地域には8校ほど日本語学校と寮があり、特にネパール人が多く住んでいます。

 

 公民館は「集う」「学ぶ」「結ぶ」役割を果たすことで、住民の自治能力の向上を目指すものです。とはいえ、地域課題に向き合うばかりでは長続きしないので、活動そのものをいかに魅力的にできるか、課題解決によっていかに新しい価値を生み出せるかが、大切になります。

 

 事業を企画するときは、事業実施をゴールにはせず、プロセスを重視します。事業の先に目指したい姿を意識し、企画段階から様々な方に参画してもらっています。

 

那覇市若狭公民館

 

 

 若狭地域の外国人住民は、2015年頃から急増しました。不安の声が聞こえるようになり、交流の機会が必要だと感じた私は、沖縄NGOセンターに相談。ネパール人コミュニティである沖縄ネパール友好協会を紹介してもらいました。

 

 以来、様々な企画を行っています。ネパールのお正月を祝うイベントを地域住民と留学生が一緒に作り上げたり、ネパール料理講座や、やさしい日本語のカルタによる防災ワークショップを行ったりしました。次第に今度は、地域のお祭りにネパール人が屋台を出すなど、地域住民とネパール人の関係性が変わっていったと思います。

 

ネパールのお正月を祝うパーティー。留学生と地域住民が共に企画した

 

「ユーチュー部」は外国人と地域住民が交流しながら映像制作について学ぶ活動。
文化が違うと視点が違うことを体感しながら、地域の魅力を再確認

 

 コロナ禍では、飲食業や観光業といった留学生のアルバイト先が影響を受け、留学生も厳しい状況に立たされました。困難な状況を改善するため、当事者団体と行政が非公式に情報交換をする場を設けたり、外国人と社会福祉協議会、市議会の各常任委員長による話し合いの場をライブ配信したり、公民館を活用した取り組みを行いました。視聴した市議が、外国人が置かれた状況に気づいて議会質問するなど、成果があったと感じています。

 

公民館という場を活用し、語り合う場を創出。ライブ配信を行った

 

 外国人自身も、地域の一員として役に立ちたいという思いを持っています。あるネパールの学生は、日本で初めて献血に行ったところ、問診表の記入など大変なこともあったが献血できたと喜び、SNSにアップしました。すると仲間が集まって、月に1回献血に行く団体(ネパール献血者協会)ができました。その後、団体が1周年を迎えるにあたって、「献血を続けて見えてきた課題を社会に伝えたい」ということでしたので、若狭公民館がイベント実施を後押ししました。

 

 私たちの取り組みは公民館単独でできることではなく、必ずパートナーがいます。当事者や支援者と一緒に動いて成果が上がれば、彼らはもっとやりたい気持ちになります。コロナ危機で生まれた様々な動きは、「自治を育む」ことにつながっていると思います。

 

多文化カフェは、同郷の人が少ない方や単身赴任で来日した方なども参加しやすい場。
最近は、別の活動で公民館を利用する高校生も、多文化カフェに参加している

 

質疑応答

 

 

川北:300人の「おせっかいさん」は、豊島子どもWAKUWAKUネットワークにとって、最大の資源です。人数が増えると、コミュニティの運営ルールなども変わります。おせっかいさんが増えていく過程で、心がけたことはありますか。また、男性の関わりを増やす工夫はありますか。

 

栗林:コロナ禍での食糧支援が、おせっかいさんの増加につながりました。区内全域で食糧支援を行うようになると、各地域のリーダー的存在の方が参加し、その方が地域に根差したボランティアさんにお声がけしてくれたのです。おせっかいさんは「WAKUWAKUのボランティアをしている」というよりは、「地域の子どものためにやっている」感覚で、私はそれが良いと思っています。男性は、学習支援に定年退職後の方が多く関わっています。食糧支援は、お勤め先の企業からの呼びかけで参加する男性ボランティアが多いです。

 

川北:公民館として従来とは異なる新しい活動をするとき、住民による運営委員会との調整をどのように行っていますか。また、既存の活動との相互作用も教えてください。

 

宮城:若狭公民館の指定管理者である「地域サポートわかさ」は、自治会長や民生委員など地域の中心的な役割を担う人たちが作ったネットワーク組織です。ここが、かつての公民館運営審議会(注:以前は地域住民による公民館運営審議会の設置義務があったが、現在は任意)のような役割を担っています。既存の活動をサポートしながら、新しい活動を始めているので、運営委員会から不満が出ることは特にありません。外部から表彰を受けたことで、一層認められるようになったと思います。既存の活動と緩やかな接点を持ちつつ、がんばらず、でもあきらめないように続けています。

 

最後に、栗林さんは「地域の子どもはみんなの子ども。既存の組織とも共感しあって連携できる部分が必ずあるので、対話を一番大事にしている」、宮城さんは「課題を解決しようとがんばらなくても、楽しく取り組めば、仲間が増えていく。本当に伝えたいことを次第に仲間が伝えてくれるようになる」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子