【抄録】第4回 求められる支援の在り方/高齢化・人口減少の加速化に備える持続可能な地域づくりと、 国際交流・多文化共生のこれから 連続セミナー2024
2024.07.31
(公財)かめのり財団は、連続セミナー2024の第4回「求められる支援の在り方」を、2024年7月5日(金)、オンラインで開催しました。矢野 花織 氏(北九州国際交流協会)、新居 みどり 氏(国際活動市民中心)をお招きし、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] )の進行で、お話を伺いました。
前回(第3回)では、地方都市における新しい国際交流・多文化共生事例をご紹介いただきました。外国人と共存するために、外国人の価値観や考え方を柔軟に受け入れ、我々の意識や価値観を転換していくこと、そして外国人のみならず社員や市民が働きやすい環境を作り、他地域ともつながることが大事だと感じました。今回の内容も、皆様の活動に役立てていただければと思います。
今回は、外国人のくらしを支えるという観点から、2つのフロンティアの取り組みを伺います。外国人が日本で長くくらし続けていくうえで、社会福祉は基礎的な基盤となります。外国人の受け入れの進化について、社会福祉士の資格もお持ちである矢野さんの経験からお話を伺います。また、外国人相談や外国人を支える関係・環境づくりに取り組んできた新居さんから、これまでの歩みと今後の展望について伺います。
北九州国際交流協会は、全国63団体ある地域国際化協会の一つです。外国人に対する支援として、「外国人相談」と「日本語教育」に力を入れています。
外国人相談は、「北九州市多文化共生ワンストップインフォメーションセンター」が担っています。出入国在留管理庁の外国人受入環境整備交付金で設置しているもので、市内2か所、24言語で対応しています。
窓口で対応するのは、外国語ネイティブまたはネイティブレベルの外国語相談員です。窓口で解決できない問題は、相談・通訳コーディネーターが解決方法を整理し、通訳サービスや外部機関につないでいきます。私がセンター長業務と兼務する形で担当する多文化ソーシャルワーカーは、精神的な問題を抱える相談者や、複雑なケース、緊急対応にあたります。関係機関同士の連携による対応やアウトリーチも行っています。
センター長として、チーム作りで意識しているのは、①相談支援の専門職としての適性を見て採用・配置すること、②異なる役割・専門性を生かしあう「チーム」という意識を持つこと、③失敗を責めない・責められない関係性を保つことです。この3点を意識するようになってから、チームがうまく回るようになりました。
ただ、今に至るまでは時間がかかりました。私が入職した2008年度当時、協会の主な事業は国際交流のイベントでした。この頃、総務省から地域における多文化共生推進プランが出され、協会の在り方を見直すなかで、外国人相談窓口の設置が決まりました。
しかし、協会の相談窓口だけでは解決できないことが多く、行政機関に動いてもらう必要があります。そこで、行政通訳の登録制度を設け、行政機関に対し通訳を派遣できるようにしました。さらに、2013年度には「外国人支援関係機関連絡会議(外支連)」を開始。行政内外の様々な部署や団体につなぐとき、あらかじめ信頼関係のある相手なら、連携がスムーズです。そのため、現場で業務にあたる方々との連携を深めています。
外支連でこだわっているのが、「前のめりになるしかけ」を作ることです。会議で取り上げるケーススタディは、参加者が確定してから作ります。一人ひとりの専門性に関わるテーマを必ず入れたいからです。全員が自分の得意分野を話せる機会を作り、「お客さん」にはさせない工夫をしています。
こうして、いろんな機関との関係性ができてくると、相談窓口の私たちが知らないところで、さまざまな課題が起きていることがわかってきました。相談窓口に寄せられる相談はごく一部。本当に困っている人の多くは窓口の存在を知らないし、教えてくれる人もいないということがわかってきました。そこで、次にアウトリーチを行う準備をしました。自治体国際化協会の助成金を使い、「多文化ソーシャルワーカーを核とした支援体制」の検討・試行を実施。翌年の2019年に、多文化ソーシャルワーカーを配置して、アウトリーチの体制が整いました。
日本語教育事業に関しては、当協会では2009年から、日本語コーディネーターを配置しています。地域の日本語教室については、国際交流協会が「お願い」してボランティアに集まってもらうのではなく、地域住民が自主的に地域に根付いた教室を作っていけるようにお手伝いをしてきました。現在は市内16か所の日本語教室と顔の見える関係でいます。
日本語教室は外国人にとって、地域と関わる入口となりえます。日本人の市民にとっても「外国語はできないけど日本語なら」と入りやすく、日本語のできる外国人が地域活動を始める入り口としても有効です。日本語教室はみんなにとっての地域活動への入り口であり、居心地のよい居場所にもなっています。行政が設置する場とは違う、地域住民自らによる主体的な交流が日本語教室で生まれています。
私は、「国際活動市民中心(以下CINGA)」と「ピナット外国人支援ともだちネット(以下ピナット)」という2つの団体で、コーディネーターとして活動しています。
2010年からピナットのコーディネーターを務めるなかで、外国にルーツを持つ人が、地域において困ったことにいかに直面しているかを知りました。ボランティアの私たちだけが一生懸命に支援しても、根本的な解決は難しいとも感じました。2011年、私はCINGAに入職。東京の広域対応体制や国際交流協会の支援があっても、地域の協力がなかなか進みません。それはなぜだろうかと考えるようになったのです。
地域の方を「あちら側」の人と表現するならば、「あちら側」の人は、外国人のことは「こちら側」つまり外国人支援をする者につなげばよいと考えています。地域の方が外国人支援の活動に共感してくださったとしても、一緒に取り組めることはあまりありません。そうであれば、外国人支援の人間が、「あちら側」に入らなければいけないのではと思うようになりました。そこで、市民活動団体のコーディネーターとして、自分の時間を使って「実験」をしてみようと思いました。
そこで、私は2015年、三鷹市社会福祉協議会が主催する地域ファシリテーター研修という1年間の学びに参加することに。研修で仲間ができ、高齢者の見守り活動である三鷹ほのぼのネットワークのメンバーになったり、高齢者のお茶会をお手伝いしたりと、地域とのつながりが生まれました。
人間関係ができてくると、地域にはさまざまな課題があり、外国人もその中の一つであると感じるようになりました。ただ、外国人支援は在留資格と言葉の問題が特徴です。市民や専門職に対して、提供できるメニューを外国人支援側から提示しないといけません。
CINGAで着手した取り組みの一つが、少数言語通訳者コーディネート事業です。少数言語の通訳は母数が少なく、また各国際交流協会に登録しているので、自治体を超えて通訳に行くことはできません。そこで少数言語の通訳を派遣できる体制を作り、通訳を必要とする現場にチラシを送りました。
次に、地域側の人が外国人支援側を利用しやすくなるよう、外国人支援現場ツアーを行いました。社会福祉協議会や市役所の職員に向けて、支援現場を知ってもらうツアーです。外国人支援においては自治体間格差も課題ですので、3自治体の関係者に呼びかけ、国際交流協会が活発な自治体、交流事業が主体の国際交流協会である自治体、国際交流協会がない自治体の3つを回り、違いを知っていただきました。
また、地域の方や福祉専門職向けのオンライン連続研修を立ち上げました。さらには、地域で活動する市民に対して伝えたいと考え、ピナットのメンバーと一緒に、「となりのママは外国人!?」という紙芝居を作りました。すると、社会福祉協議会から、「やさしい日本語の研修を受けたい」とお声がけいただき、多くの方々に研修を行いました。今、「あちら側」の皆さんの動きを「こちら側」が支えるところまで来ていると思います。
2023年、三鷹市にはウクライナ避難民の方が多く来られました。行政が支援に取り組んでいますが、私は一市民として距離を感じていました。三鷹ほのぼのネットワークの会合で、ウクライナ避難民がいることを話すと、「私たちでウクライナの人の話を聞く会をしましょう」という話に。ネットワークの方から「寄付を集めましょうか」という話もありましたが、「それより避難民が働くカフェに行ってほしい」と伝えると、ほとんどの方が行ってくださり、地域の方と外国人とのつながりが生まれはじめています。
地域の外国人を外国人支援団体だけが支援するのではなく、外国人も同じ住民ですので、一緒に協力して地域側の活動で対応していく。これからはそういう対応に変えていく時期なのではないでしょうか。「あちら側」「こちら側」ではなく、「あっちこっち」で対応がなされるようになっていくことがこれからより重要になってくると思います。
川北:「ワンストップセンター」は、一時的、あるいは過渡的には有効でも、外国人の人数が増えると対応できなくなることを想定しておく必要があると考えます。住民課、子育て支援課など関連する部署に外国人住民のことを織り込んでもらうなど、今後は人の育て方を変えていく必要があります。今後の仕組みづくりをどう考えていますか。
矢野:外支連はまさにそれを目的としています。外国人相談窓口ではなく母子保健窓口で、保健師が「この方は何か問題に直面しそうだ」と「もやもや」に気づけるように、ケーススタディを作っています。実際に、気づいた方からの問い合わせをもらうことが増えました。行政職員は異動がありますので、異動先で部下に伝えてくれることもあります。今後は、「矢野さんに聞いてみよう」ではなく、協会に聞いてみようと思ってもらうことが目標です。
川北:日本の福祉は今後も高齢者の生活支援の必要性が高いですが、外国人支援においては高齢者より、子どもや生活困窮者支援の需要が高まっています。福祉や教育の専門職に対する多文化共生の支援を、業務上でどのように位置付けていますか。
新居:若者が来日し、結婚・出産するので、子ども領域の課題が増加しています。戦略的に考えていく必要がありますが、現在の増加は国際交流協会や自治体の国際化担当が考えられるレベルを超えるほどです。そのため地域で市民が実験してモデル化し、横に広げていくことが有効だと考えています。在留資格と言葉の支援をできるワンストップセンターは必要ですが、横の連携を組み合わせることが重要です。
最後に、進行役の川北さんは「ワンストップセンター単独での取り組みより、センターに集う人たちが横のつながりでいかに解決していくかが鍵。庁内、地域内をつなげるコーディネーターの存在が重要となる。医療や教育の分野では多専門職連携が重視されるようになってきたが、外国人支援も同様」と話し、全4回の連続セミナーを締めました。
抄録執筆:近藤圭子