【抄録】第1回「青少年の国際交流の『これまで』と『これから』」/国際交流の新局面 連続セミナー2021

(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー第1回「青少年の国際交流の『これまで』と『これから』」を、11月24日(水)、オンラインで開催しました。河野 淳子氏(AFS日本協会理事・事務局長)、長澤 慶幸氏(同志社大学国際連携推進機構国際センター留学生課長)、伊藤 章氏(国際ボランティア学生協会理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表)の進行で、お話を伺いました。

 

※本抄録における出入国等の情報は、2021年11月24日時点の状況に基づきます

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事長 木村 晋介

 

 新型コロナウイルス感染症の蔓延は、当団体を含め、世界中の公益事業に影響を与えています。しかし、今、制約を超えて新たな活動が生まれはじめています。青少年の異文化交流はどのような工夫をして実施されているか、今後の展望をどう開くのか、今回のセミナーでは現場の声を共有します。皆さまの活動にお役立ていただければ幸いです。

 

河野 淳子氏(公益財団法人AFS日本協会 理事・事務局長)

 

 

 AFSは、10代の異文化体験をサポートする団体です。世界約60ヶ国に拠点を展開し、自ら考えて行動するグローバル市民を育成してきました。2019年にAFSを通して留学したのは、世界約11,000人。異文化体験による10代の学びは、社会で生きるために必要な、しかし教室では得られないものです。

 

 2020年3月、新型コロナ感染拡大でプログラムをすべて中止し、世界7,000人を本国に帰国させる一大オペレーションを決行しました。道半ばで留学を終えた学生も多数いましたが、「後悔があるからこそ、これからを変えられる」「マスクをつけていても友情の大きさに関係はない」といった言葉は、団体としては救いだったと思います。彼らの姿勢から、学びに大切なのはその長さではなく、質であると気付かされました。

 

留学の再開に向けた調整を進めた。世界共通のルールを作り、交流国の多様性を維持

 

 現在は、ITテクノロジーを駆使したオンライン異文化交流プログラムを充実させています。大学生や社会人向けだった従来のものを、急遽、帰国した高校生向けにリメイク。異文化学習の継続に役立てました。これには53カ国で約6,000人の帰国生が参加しました。また、米国の大学と共同でグローバル市民教育のオンラインプログラムを開発しており、2022年以降の参加生は出発前、留学中、帰国後のオンライン学習を必須とする予定です。

 

オンラインプログラムを充実させた。帰国生向けのライブセッションのファシリテートは、異文化交流のスキルを身につけたボランティアが担当

 

 さらにコロナ禍では、ボランティアコミュニティが活性化したことも、大きな変化でした。ボランティア登録者数は2割増加し、ホストスクールと来日前の留学生をつなぐなど、地域社会のグローバル化に貢献しています。今後、10代の異文化教育に対する社会の関心は高まるでしょう。異文化体験を経て、日本の課題を真剣に考える若者が増えていくことを願っています。

 

これからの10代留学は、実体験とオンライン学習のハイブリッド展開が見込まれる

 

長澤 慶幸氏(同志社大学 国際連携推進機構国際センター留学生課長)

 

 

 同志社大学は「良心を手腕に運用する人物の養成」という建学の精神に基づいて、「良心教育」を展開しています。そして、建学の精神を実現するために、「キリスト教主義」「自由主義」「国際主義」の3つの教育理念を打ち立てています。新型コロナの感染拡大は大学生の留学にも大きな影響を与え、2020年度に本学の留学プログラムにより留学した学生は0名でした。2021年9月より1セメスター以上の交換留学を条件付きで再開し、約30名が渡航しています。外国人留学生の受け入れは、2021年5月時点で68カ国1,152名ですが、日本国外でオンライン授業を受講している学生も含みます。本学学生の派遣留学は再開しましたが、外国人留学生は日本への入国制限が厳しいためほとんど受入ができていない状況です。

 

同志社大学の留学プログラムにより留学した学生数

 

同志社大学の外国人留学生受け入れ数。私費留学生の受け入れが停滞している

 

 この間、オンラインプログラムに力を入れました。本学EUキャンパスのドイツ語オンラインプログラム、高麗大学のグローバルリーダーシッププログラム、日本語・日本文化ワンポイント講座等に、多くの学生が参加しており、国際交流への関心の高さを感じています。

 

 オンラインプログラムは、学びと教育の自由度を高める、留学を意識していない学生への国際交流の機会を提供できるなどが期待されます。一方で、短期間のプログラムであれば高い教育効果が見込めますが、学位や単位の取得を伴う長期間のプログラムについては時差の問題があり、海外渡航型留学の代替措置とはなりません。オンラインプログラムは海外渡航型の留学とは異なる教育手法の新たなカテゴリーとして、今後も引き続き、効率的な運用に向けてさらに工夫する必要があります。

 

 コロナ禍で社会の分断が課題となるなか、このような現代社会にあってこそ、本学の教育理念を体得した人物を養成することは大切だと考えています。コロナ禍であっても本学学生の派遣留学出願件数は増加し、また本学への留学希望者数もコロナ前とあまり変わっていません。このような状況下であっても、国際交流を止めることなく、引き続き支援に取り組んでいきたいと考えています。

 

オンラインプログラムには、利点とともに課題も

 

伊藤 章氏(特定非営利活動法人国際ボランティア学生協会(IVUSA) 理事)

 

 

 IVUSAは、1993年に設立された大学生中心のNPOです。「共に生きる社会」をビジョンに掲げ、国際協力ほか5つの分野で活動してきました。所属する大学生は約2,500名で、大学生自身が組織運営を行い、職員はそのサポートをしています。

 

 IVUSAは、フィリピンやカンボジア、ネパール、インド、中国などで、地元の学生や住民とともに寝食を共にしながら、学校建設や植林などを行うワークキャンプを実施してきました。特色は、「大人数で宿泊を伴う活動」。これは「密」な環境であり、コロナ禍においては実施をあきらめざるを得ません。2020年3月以降、オンライン、少人数、日帰りの活動へとシフトしましたが、従来の魅力とは異なるもので、学生や職員のモチベーションがあまり上がらなかったのが正直なところです。

 

新型コロナ流行前の最後の活動となった、カンボジアでのワークキャンプ

 

国内の災害においてもボランティア活動を展開

 

 他のワークキャンプ団体でも、同じ状況が見受けられます。最大の課題は、現場で継承されてきた運営の知識が断絶することです。マニュアル類は整備していても、現場で先輩から後輩に伝えられてきたノウハウには大きな価値がありました。例えば、学生が主体的に周囲に目配りするマインドは現場で受け継がれてきたのです。

 

 オンラインでの交流も行っていますが、簡単ではありません。ボランティアを通した国際交流は、現場で一緒に活動する時間こそが重要で、身体性を伴った経験が忘れられない価値となります。経験のない学生に交流を呼びかけても、言葉のハードルもあって、なかなか参加に結びつきません。ワークキャンプをする団体にとってオンラインプログラムは、現地で得た人間関係をキープする上ではメリットがありますが、現地の方とゼロから仲良くなることに使うのは難しいと感じます。

 

 ワークキャンプの再開は、早くても2023年春頃ではないかと見込んでいます。ノウハウも、地域との人間関係も、ほぼゼロからの再スタートです。

 

現場での活動が難しい現状。モチベーション維持が課題

 

 

質疑応答

 

 

川北:新型コロナは、経済状況の格差を拡大させました。留学生の経済状況にも影響がありましたか。また、派遣の再開に向けて各国の組織をモニタリングする中で、見直された組織の価値あるいは課題はありましたか?

 

河野:一時的な対応としては、留学直後にコロナ禍により帰国せざるを得なかった生徒に対し、参加費を滞在期間に応じて返金しました。また、再渡航を希望した生徒に対しては、参加費支援を行って、そのチャンスを与えました。今後、より多くの生徒に機会を提供するためには経済的支援が必要です。AFSでは、ネットワーク全体で、奨学金獲得の目標を決めて取り組んでいます。組織のモニタリングはコロナ以前からの課題の顕在化にもつながり、実際、団体を閉鎖して再出発した国もあります。日本協会としては、異文化論の学びから、不確実性を回避するのが苦手な文化であると認識し、期待値調整をしながら事業を進めることにチャレンジしています。

 

川北:コロナ禍によって、来日前、来日中の留学生支援のあり方に変化はありましたか。

 

長澤:昨年、母国に一時帰国中の外国人留学生の一部から「日本に戻りたくない」との声がありました。このため英語の字幕を付けたコロナ禍でのキャンパスライフについての動画を作成し、日本で安心して学べることを伝えました。現在の課題は日本入国のハードルの高さです。ワクチン接種を2回すれば待機期間が不要な国もあるなか、日本の入国ルールは厳しいと感じる外国人留学生もいます。また、入国後14日間の隔離期間をホテルで過ごすため、費用負担が大きくなっています。

 

川北:IVUSAは、国内災害時の緊急支援においても実績があります。海外に行けないならば、国内の活動を強化するという方向性もあるでしょうか。

 

伊藤:2020年と2021年では状況が異なりました。新型コロナについてわからなかった2020年は、災害が起きても県外ボランティアを受け入れる自治体はあまりありませんでした。学生側の不安感も大きく、また大学によっては課外活動を禁止する例もありました。2021年になるとコロナ対策をどのくらいすればいいかはわかってきましたが、緊急事態宣言が出続ける中で活動するのには、難しさがありました。団体内にも、国内での国際交流に力を入れるべきという声があります。海外ワークキャンプはまだ再開できないので、来年度にかけて新たな事業を検討していく時間になると思います。

 

最後に、河野氏は「若い人たちには異文化経験を活かして日本社会に貢献してもらいたい。それを実現する教育プログラムを皆さんと一緒に考えていきたい」、長澤氏は「留学によって得られる経験は、帰国後、他の学生にもいい影響を与える。様々な体験をする若い人たちをこれからも支援していきたい」、伊藤氏は「国が違う若者が体験を共有する価値は、今までにまして高まっている。国際ワークキャンプの伝統を絶やさぬよう頑張っていきたい」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子