【抄録】第2回「地域における多文化共生や外国人の就労の『これまで』と『これから』」/国際交流の新局面 連続セミナー2021

(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー第2回「地域における多文化共生や外国人の就労の『これまで』と『これから』」を、12月3日(金)、オンラインで開催しました。鈴木 江理子氏(国士舘大学文学部教授)、吉水 慈豊氏(日越ともいき支援会代表理事)、田村 太郎氏(ダイバーシティ研究所代表理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表)の進行で、お話を伺いました。

 

※本抄録における情報は、2021年12月3日時点の状況に基づきます

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事・事務局長 西田 浩子

 

 新型コロナウイルス感染症の影響で、当団体では青少年の海外派遣事業を中止しました。一方で、緊急課題に対応する活動や困窮する留学生に、2年連続で助成を行っています。本セミナーは、緊急課題を社会に発信し、検討を行う試みです。今回は、多文化共生における取組みと課題について、伺います。

 

鈴木 江理子氏(国士舘大学文学部教授)

 

 

 コロナ禍において外国人は、雇用への打撃、学ぶことの困難、セーフティネットの壁など様々な課題に直面していますが、今回は雇用について考えたいと思います。ハローワークにおける外国人の新規求職者数は、2020年5月から6月にかけて大きく増加し、前年同月比で比較すると、日本人よりも増加率が高くなっています。新規求職者に占める非自発的離職者、すなわち会社都合で解雇された外国人の割合は、日本人よりも高く、一方で、就職率は、日本人に比べて低くなっています。

 

外国人は、会社都合で解雇された人の割合が大きい

 

 間接雇用比率は、日本全体で2.5%であるのに対して、ニューカマー外国人では2割近くを占めています。さらに、外国人は、日本人と比較して、小規模な事業所で働く割合が高くなっています。重層的な下請構造の下位に位置づけられ、雇用主による主体的な事業戦略や雇用計画を立てることが難しく、経営基盤が脆弱な事業所で雇用される外国人が多いということも、雇用環境の不安定さに拍車をかけています。

 

従業員規模別の分布。外国人は、従業員30人未満の小規模な事業所で働く割合が高い

 

 差別も深刻です。法務省委託の調査では、全体の4分の1もの人が、過去5年間に外国人であることを理由に就職を断られたと回答しています。日本語能力別にクロス分析すると、日本語ができても、差別を受けていることがわかりました。日本語能力の不足が原因であれば、日本語を習得することで差別をなくすことができるかもしれません。しかしながら、外国人であるという属性ゆえの差別であるとしたら、本人の努力では乗り越えることができません。

 

就職差別・雇用差別の経験。日本語ができても差別されている

 

 コロナによって、外国人がおかれている平時の脆弱性が露呈しました。大切なのは、平時から「弱者」を生み出さないこと。そのためには、自助を高められるよう、公助や共助によるサポートが欠かせません。日本語や技能習得の支援、異なる言語や文化を持つ人がともに働ける環境整備、差別の根絶に向けた取組みなどが求められます。また、制度的にも実質的にも、外国人が日本人同様に公的なセーフティネットを利用できるようにすることも大切です。

 

吉水 慈豊氏(特定非営利活動法人日越ともいき支援会代表理事)

 

 

 私は浄土宗の僧侶として、日本にいるベトナム人留学生や技能実習生が、自ら命を断つ現実に直面してきました。これに心を痛めて立ち上げた日越ともいき支援会では、ベトナム語が堪能な神戸大学斉藤善久准教授を顧問に、大学生などで作るボランティアの青年部とともに、ベトナム人の生活支援や勉強のサポートをしています。

 
在日ベトナム人から届くSOSに応えるとともに、政府やメディアへの提言も行なう

 

 当会には、借金、失踪、妊娠・中絶、医療問題など、たくさんの相談がSNSを通じて寄せられます。コロナ禍においては、職を失い、それに伴い家も失った人が多く見られ、2021年はこれまでに426名の困窮ベトナム人を保護してきました。また、犯罪に巻き込まれる例が続いており、通訳を見つけるなど裁判の支援も行っています。医療支援としては、新型コロナ感染者の入院手続きや、妊婦さんの支援をしています。

 

2020年から支援が急増

 

 政府は、コロナ禍における雇用維持支援として、技能実習等の在留資格を特定活動に変更することを認めました。当会は登録支援機関として登録し、たくさんの企業と連携して、400名近いベトナム人の在留資格変更と就労継続を支援しています。

 

 ベトナム人からSOSが届くと、斉藤顧問がベトナム語で聞き取りをし、その後、在留資格変更に向けて動きます。特に、当会では、日本語の勉強に力を入れています。特定活動資格には、日本語能力試験N4以上が必須ですので、資格変更にかかる2〜3ヶ月の間に学ぶのです。当会にたどり着いた人はみな、職と家を失い、深く傷ついています。前向きになれない心境ではありますが、お互いにアドバイスしながら勉強を頑張っています。技能実習制度、特定技能制度にはいずれも大きな課題があります。その問題を世の中に発信し、ベトナム人がよりよい環境で、日本で暮らしていけるように支援を続けていきたいと思います。

 

無料の日本語授業を実施。お互いに励まし合いながら学んでいる

 

 

田村 太郎氏(一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事)

 

 

 私は、阪神・淡路大震災で外国人の相談活動を行ったことをきっかけに、多文化共生の仕組みづくりに取り組んできました。まず知っていただきたいのは、全国で約290万人暮らしている外国人の「多様さ」です。国籍が違えば、言葉や文化、習慣、法制度が異なりますし、在留資格が違えば日本でできる活動が異なります。また、年代も多様化しており、外国ルーツの子どもが増える一方で高齢者の福祉ニーズも生まれています。

 

外国人住民の「3つの多様化」が進行している

 

 日本を含むアジアは、人口減少と経済成長で大きく変化してきました。「日本は豊かだからアジアの人は喜んで働きに来てくれる」は30年以上前の話です。他国も成長し、今や日本の賃金は決して高くありません。国境を超えた移動には、プッシュ要因とプル要因があります。経済成長に伴い、アジア全体でプッシュ要因は減少。一方、外国人を呼び込もうとするプル要因が各国で増しています。アジアの自治体は、自国の言語を学習する環境の整備と、相談や情報を多言語で対応できる地域づくりに力を入れています。日本も外国人が安心して暮らせる地域を作らなければ未来はありません。

 

 欧州を見ると、古典的な多文化主義からの脱却が進み、今は「インターカルチュラル(=多文化共生)」を進める都市が増えています。かつては、それぞれの文化を尊重する一方で言語学習の支援に力を入れず、その結果、社会に分離が広まりました。放任主義的な政策が排斥への流れを生んでしまった反省から、統合と共生を目指す流れにあります。これは、違いを受け入れ、地域も外国人も共に変化する姿勢です。日本もこうした欧州の経験を学び、国や自治体の施策を見直す必要があります。

 

ちがいを受け入れともに変化する「共生」が、ダイバーシティのポジション

 

 日本は、1989年の「外国人労働者を受け入れない」とする閣議決定以降、さまざまな「例外」を設けて受け入れる政策を保ち続けてきました。2018年にようやく「外国人労働者の受け入れと共生施策の推進」を新たに閣議決定し方針を転換したのです。今年、私も参加する政府の有識者会議は、政府がやるべき4つの施策を整理しました。新たなポイントの一つが、ライフステージに応じた支援が掲げられていることです。「例外的な受け入れ」から、政府もようやく方針転換しようとしています。

 

今後は、事業所を巻き込んだ「持続可能な地域社会」の創造、10年先を見据えた「多文化共生の担い手」育成が必要

 

質疑応答

 

 

川北:今後まっとうな多文化共生を進めていくうえで、いつまでにどういった対策がどれくらい求められるか、望ましいスケール感についてお教えください。

 

鈴木:日系人の受け入れから30年余り、政府が必要な取り組みを怠ってきたことを考えれば、望ましいスケール感というより、猶予なく取り組むべき課題です。2019年、ようやく日本語教育推進法が制定されましたので、国や自治体はその責務をしっかりと果たしてほしいと思います。実施主体は主に自治体になりますが、財政状況等によって、地域差が出てしまいます。生活する場所によって不利になる人々が生まれることがないよう、財源と人材について、国からのバックアップが必要です。

 

川北:今後、キャリア支援も行なうとのことですが、就きたい職業によって支援の形が異なるのではないでしょうか。どのように進めますか。

 

吉水:保護をしている間に、将来的にどういう在留資格を取りたいのか、何をやりたいのかを考えてもらっています。一番効果的だと思うのはベトナム人の先輩から学ぶことで、留学生や特定技能の先輩を呼んで、勉強を教えてもらっています。長期的に日本に滞在したい人には介護を勧めました。介護の在留資格を取るためには、良い先輩がいる病院やホームにつなぐのが最適です。ベトナム人コミュニティとうまく連携を取りながら、支援をしてくれる受入企業さんとつないでいます。

 

川北:国はフレームワークを作りますが、その実践の現場を主導するのは自治体です。推進施策を実践する上では、多文化共生は地域の問題であることを、もっと伝える必要があるのではないでしょうか。

 

田村:日本の政策は、自治体から国に交付金を申請する形がほとんどです。そのため、外国人住民向けの施策も、自治体によって手厚いところと、何もしないところに二極化していくでしょう。一方で、欧州や米国、豪州の移民支援を見ると、政府や自治体からの委託を受けて移民向けサービスを提供するのは、移民たち自らが作ったNPOです。これからは、当事者の若い世代を応援し、そこに委託や寄付金がもたらされる流れを作れるよう活動したいと考えています。

 

最後に、鈴木氏は「日本で生まれた、外国にルーツのある子どもたちも増加している。若者たちがお互いから学び合えるよう、支援したい」、吉水氏は「特定技能で在留する人からの支援要請が増加している。制度の見直しが必要であり、問題提起を続けていきたい」、田村氏は「日本に住む外国人の現状を伝えること、国際標準の人権感覚とのギャップを埋めること、多文化共生の担い手を育てることが必要だ」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子