【抄録】第1回 地域における外国人のくらしの 「これまで」と「これから」 /国際交流の新局面 連続セミナー2022
2023.01.10
(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー2022 第1回「地域における外国人のくらしの 『これまで』と『これから』」を、12月12日(月)、オンラインで開催しました。田村 太郎氏(ダイバーシティ研究所 代表理事)、鈴木 江理子氏(国士舘大学 文学部 教授)、長谷部 治氏 (神戸市社会福祉協議会 地域支援部担当課長)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表)の進行で、お話を伺いました。
かめのり財団では2021〜2022年度に渡り国内の多文化共生をテーマに助成事業を行ってきました。視察や各団体からの報告を通して在留外国人の現状を目の当たりにし、多文化共生の支援の重要性を実感しています。今回のセミナーをこれからの多文化共生についてともに考える機会にしていただけたらと思っています。
日本には約300万人の外国人が暮らしていますが「5つの多様化」が進んでいます。「国籍」「在留資格」「年代・世代」の多様化に加え、この5年ほどで、「居住地域」と「経済状況」の多様化も進みました。
在留外国人の数は今年6月末に過去最多を記録しました。在留資格については近年、技能実習など、日本でできる活動や受けられる権利に制限のある資格で在留する方が増えています。
政府は2018年、外国人労働者の受入れと共生施策の推進を閣議決定しました。これを受け、2018年末には「外国人材受入れ・共生のための総合的対応策」が発表されています。各省庁の施策を俯瞰的に列挙したもので、施策ごとに交付金等が設けられていますが、予算の獲得には自治体側からの交付申請や委託事業としての申請が必要です。制度を活用して相談窓口の整備や日本語教育の充実に取り組む自治体がある一方で、着手していない自治体も多く、今後、地域ごとの差が開いていくと予想しています。また、入管行政においても共生施策の推進が入管の業務に加わりました。このように多文化共生は政府も予算をつけている政策です。
今後求められるのは、多様化する外国人のニーズに対応できるキャパシティの構築です。外国ルーツの人材の活躍も不可欠ですが、優秀な人材が報酬の安さから多文化共生分野に残らない課題があります。多文化共生が職業として成り立つ生態系の整備を進めたいと考えています。
「共生」とは何でしょうか。“おなじ“と“ちがい“の2つの視点から考えたいと思います。“外国人”(国籍にかかわらず外国ルーツの人)にとっての「不平等」(“おなじ”ではないこと)にはまず、母語ではない公用語があります。2019年に日本語教育推進法が制定され、日本語学習機会の提供は国や自治体の責務となりました。しかしながら、公的な学習支援制度はいまだ整備されておらず、暮らす地域による格差が生じています。
2つ目に制度的不平等があります。国民であるか外国人であるか、あるいは法的地位によって権利に差があります。国際人権規約、難民条約の発効により、内外人平等の原則のもと、社会保障分野における外国人の権利が拡大されました。けれども、それ以降、日本で暮らす外国人が倍増しているにもかかわらず、制度的不平等は改善されていません。
3つ目に実質的不平等として差別も存在します。入管庁が実施した「在留外国人に対する基礎調査」結果を見ても、外国人の半数以上が何らかの差別を経験しています。
これら3つの不平等(壁)がもたらすのは社会経済的な不平等、すなわち格差です。「不平等」を解消し“おなじ”を実現するためには、3つの不平等を解消し社会経済的格差を是正する必要があります。これにより初めて、同じ社会の住民として対等な関係を構築できます。
一方で、“ちがい”、つまり文化的差異の承認も重要です。異なる言語・文化が尊重され、保持する権利が保障されること、多様な言語・文化を前提とした社会環境を整備することが求められます。加えて、真の共生を実現するためにはマジョリティの意識変容も欠かせません。
こういった取り組みはこれまでも行われてきましたがまだ不足しており、一層進めていかなければなりません。加えて、“外国人”を支援の対象や社会の担い手としてではなく、「権利の主体」として捉えていくことが大事だと考えています。
私は昨年度まで神戸市兵庫区の社会福祉協議会で、生活福祉資金特例貸付の窓口を担当していました。コロナ禍の特例貸付では、緊急小口資金(20万円)を1回、総合支援資金(月15万円または20万円)を最大9ヶ月の貸付が可能で、多い世帯では最大約200万円を借りています。全国の貸付実績約343万件のうち8.9%が外国人への貸付です。窓口にいた者としては外国人の相談はもっと多かった印象があります。
特例貸付窓口から福祉課題が見えてきました。1つ目は生活福祉資金における「世帯」の解釈と実態のずれです。生活福祉資金では、住民票が複数に分かれていても同じ家に住んでいれば、1つの世帯とみなします。貸付は世帯に対して行われますので、1世帯1件しか貸付できません。留学生はときに面識すらない複数人が1つの住居に暮らすことがあります。この場合でも生活福祉資金を借りられるのは1人なのか、特例貸付開始当初に議論になり、留学生は住民票ごとに貸付する運用になりました。
2つ目の課題は生活保護への誤解です。外国住民が窓口に殺到したのは、在留資格によっては生活保護が使えないからです。窓口に立つ多くのソーシャルワーカーは在留資格に関する知識を持ち合わせていませんでした。
3つ目は留学生の出産です。留学生男女が妊娠・結婚して生活費用が必要になったとき、単身では男女それぞれに貸付できますが、入籍すると同一世帯になるため、1件の貸付です。父親は日中に学業、夜間にアルバイトという生活を送りますが、留学ビザでは働ける時間数に限りがあり、収入は月8万円程度。母親は復学が叶わず、ワンオペ育児をしています。生活保護は申請できないため特例貸付が唯一のつなぎです。
この中で「予防」の重要性が見えてきました。母国によっては性教育を受けたことがなく、妊娠の知識がないのです。外国人支援NPOと連携して性教育の冊子を多言語で作り、望まない妊娠の予防に取り組んでいます。また出産後、言語の壁から手続きの不備が生じ、赤ちゃんがオーバーステイになって母親と一緒に帰国せざるを得ない例もあります。在留資格がなければ乳幼児検診も受けられないため保健師等と連携して対応しています。
川北:多文化共生を職業として成り立たせるためにはどのような道筋が必要ですか。
田村:介護保険制度は参考になります。かつては家族やボランティアが介護をしていましたが、介護保険制度の開始後は、職業としてサービスが提供されています。今の外国人支援は介護保険制度の導入前夜と近い状態です。いまは外国人の家族やボランティアが行っていることを、職業として成り立つ状態にしなければなりません。入管庁は今年「総合的な支援をコーディネートする人材の役割に関する検討会」を立ち上げました。相談者と支援を最短でつなぐ仕組みを作るとしていますが、つなぐ先がないのが現状です。財源を確保し、支援の担い手を育成して生態系の整備を急ぐ必要があります。
川北:言葉・制度・心の壁を克服するために自治体にはどのようなステップが必要でしょうか。
鈴木:これまでの取り組みの優先順位は、総じて受け入れ社会の視点で決定されてきました。例えばごみ捨ての多言語化は早い段階から取り組まれています。その一方で、当事者の視点が欠けているような気がします。病院の受診や災害時の対応など、本人にとって何が大事なのか、生活や生命を守るという視点が重要です。また母語や母文化の継承は後回しにされがちですが、ルーツに誇りをもち、自らの可能性をひろげ、よりよい人生を送る上で大切なことです。何が必要なのかを当事者の視点で考えることは、共生への第一歩です。
川北:年明けから生活福祉資金の返済が始まります。対応の動きはありますか。
長谷部:生活福祉資金は返済が基本ですが、難しい場合は免除が行われます。しかし免除のためには外国人世帯も免除申請手続きが必要です。また社会福祉協議会は生活を立て直すための仕事相談も担いますが、外国人が使える制度はほとんどありません。制度がないなら個別に対応し救っていくのが、コミュニティソーシャルワーカーの役割ですが、社会福祉協議会だけの力では足りません。私が役員をしているNPOでは、社会福祉協議会と国際交流協会が外国籍住民の困りごとへの対応力強化に合同で取り組む事業をしています。社協と多文化共生関連団体がお互いの役割を理解することで救えるようになるのではないかと考えています。
最後に、田村氏は「外国人が自分らしい生き方をできる地域は日本人にとっても暮らしやすい地域。多文化共生はよい地域づくりのリトマス試験紙のような役割になる」、鈴木氏は「違いが認められ対等な立場で参画できることは、外国人だけでなく誰にとっても必要。私たち自身のためにも“ちがい”と“おなじ”を認識し地域の魅力を作っていくことは大切」、長谷部氏は「仕事や家庭の他に“社会”にも居場所を持つ人をいかに増やせるか。地域活動のはじめのきっかけを作るために積極的に仲間を誘い、地域の担い手を増やしていきたい」と話しました。
抄録執筆:近藤圭子