【抄録】第3回 多文化共生を支援する助成プログラムの「これまで」と「これから」 /国際交流の新局面 連続セミナー2022

(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー2022 第3回「多文化共生を支援する助成プログラムの『これまで』と『これから』」を、1月6日(金)、オンラインで開催しました。阿部 陽一郎氏(中央共同募金会 常務理事・事務局長)、利根 英夫氏(トヨタ財団 プログラムオフィサー)、毛受 敏浩氏(日本国際交流センター 執行理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)の進行で、お話を伺いました。

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事・事務局長 西田 浩子

 

 第3回は助成プログラムの「これまで」と「これから」について伺います。かめのり財団では2022年度、多文化共生をテーマにした緊急支援プロジェクト助成を行いました。今回も興味深いテーマですので、皆さまからもぜひたくさんのご意見・ご質問をいただきたいと思います。

 

阿部 陽一郎氏(社会福祉法人中央共同募金会 常務理事・事務局長)

 

 

 中央共同募金会は、全国の都道府県共同募金会とともに「赤い羽根共同募金運動」を推進する団体です。すべての市区町村・都道府県にネットワークがあり、地域の様々な活動に助成を行っています。2020年からは「新型コロナ感染下の福祉活動応援全国キャンペーン」を開始しました。かつて潜在的だった社会課題がコロナ禍で顕在化していることから、テーマ型の緊急助成を設けています。その一つが「外国にルーツがある人々への支援活動応援助成」です。

 

中央共同募金会では、2020年の一斉休校に伴い、子ども食堂を支援するキャンペーンを開始。その後キャンペーンを拡大し、外国にルーツがある人々への支援活動を応援する助成を設けた

 

 この助成は三菱財団との協働事業です。外国にルーツのある方々に対する支援活動を資金面で応援し、困窮する方を支える一助となることを目指しました。同時に外国ルーツの方々が置かれた状況への社会の関心を呼び起こすことも目的としています。

 

3年間で143件、約2億5700万円の助成を実施

 

 3年間の助成を通じて課題やニーズが見えてきました。外国にルーツのある方々が公的支援の枠組みの対象外であること、言語の壁などにより支援と繋がりにくいこと、「自粛」による地域からの孤立、雇い止めなどの経済的困窮、医療情報への母語によるアクセスの困難さなどで、助成への応募時にも深刻な事例が寄せられています。

 

 助成先の活動には、日本語学習の機会創出、人々との交流、就業支援、相談、居住支援、専門家や行政への相談申請における翻訳や通訳、地域で孤立しないための居場所づくり、外国ルーツの人々のコミュニティ支援などがあります。対象を外国ルーツの方々に限るのではなく、地域の高齢者や子どもたちの応援も同時に行おうとする活動が多く見られます。

 

 3回目を迎えた2022年度の助成から、「地域交流プログラム」を実験的に始めました。外国ルーツの方々と日本人との交流事業や、中山間地で孤立しやすい外国ルーツの方に対する大学生による日本語教室、多言語図書館による居場所づくりなどに助成を行っています。

 

3年間の助成を通じ、課題・ニーズが見えてきた。これを踏まえ、2022年度第3回助成から地域交流プログラムを開始

 

利根 英夫氏(公益財団法人トヨタ財団 プログラムオフィサー)

 

 

 トヨタ財団は、トヨタ自動車の100%出捐による助成財団で、年間約3.5億円の助成を行っています。2019年から、特定課題の一つとして「外国人材の受け入れと日本社会」をテーマにした助成を始めました。これは国際助成プログラムから生まれたものです。

 

 当財団の国際的な助成活動は、東南アジアの人々が対等な立場で相互理解を深めることから始まりました。初期に実施した「隣人をよく知ろう」プログラムに続き、2010年代以降の国際助成プログラムでも、双方向の学び合いを重視した助成活動を展開しています。2013年からは共通課題を設定し、その一つに「移民」に関することを含めてきました。

 

国際助成プログラムにおける近年の変遷。2013年からは、高齢化や移民など共通課題をテーマとして設定。2019年度以降は、共通課題そのものを応募者が提案する

 

 この流れを受けて設けられたのが「外国人材の受け入れと日本社会」でした。2019年、日本における外国人材の受け入れ政策は大きく変わりました。これを踏まえ、国際助成プログラムで移民をテーマにしてきた経験を生かして、設計し直したのです。特徴として、調査・研究・実践のすべてを行うことを助成先に求めている点があります。

 

2年間もしくは3年間で上限1000万円の助成を実施。助成金使途の要件は設けていない

 

 これからの助成を考えるとき、多文化共生は外国人に限らず、誰もが暮らしやすい社会づくりにつながるという点が前提になります。また限られた資源を活かすためには協働が不可欠で、日本国内だけでなく世界を俯瞰した視点も欠かせません。

 

 今後、多分野の関係者の協力がさらに求められるようになるでしょう。多文化共生は、国際交流関係者に限らず、教育や福祉、まちづくりなど多様な分野の方が関わるテーマです。助成においても、企業や自治体、教育機関など様々な立場の方が協働し学び合うプロジェクトを支えていくことになると考えています。

 

多文化共生は「外国人」の問題とは限らない。また人的資源や経済的資源が充足することはない。より多分野の関係者の協力を促し、課題に取り組む必要がある

 

毛受 敏浩氏(公益財団法人日本国際交流センター 執行理事)

 

 

 日本国際交流センター(JCIE)ではこれまで、「人の移動」事業を行ってきました。2019年に始まった「外国人材の受入れに関する円卓会議」は、政界、経済界、首長、学者、NPO、当事者コミュニティの方など約20名の多様な方にご参加いただき、議論を行っています。「共生の未来全国連携事業」では、セクターを越えて多文化共生を議論する場を各地に作るなどしています。

 

 助成については、休眠預金等活用法による事業として行ってきました。当団体としても、支援先を訪問して議論を繰り返すことで、現場で起きている課題を知る機会になっています。

 

JCIEは資金分配団体の役割を担い、実行団体に対し、資金および活動の伴走支援を行う。助成先は、外国ルーツの子どもたちの就労支援を行う団体や、困窮する外国ルーツの方への支援を行う団体

 

 日本政府は2018年まで、日本に住む外国人は一時的な滞在者だとする前提を敷いてきました。非正規労働に就く方が多く、日本語教育もおろそかにされてきています。入管法が改正された1990年以降の30年間、政策が行われてこなかった穴をいかに埋めるか。外国ルーツの方をサポートするNPOは、これまで行政や助成財団からの支援が希薄で、脆弱な環境にあります。

 

平成元年の在留外国人は98万人。現在は300万人に迫る上に、多国籍化している。支援するNPOが脆弱である一方、在留資格や言語、文化等が多様で課題は複雑

 

 休眠預金事業を通じて見えてきた課題の一つは、在留外国人が日本社会とつながっておらず、NPOによるアウトリーチに難しさがあることです。最も大きな問題は雇用です。企業が外国人を安い労働力とみなしてきた想定を変えなければいけません。

 

 多文化共生に関して、政府としての包括的な制度設計は不可欠です。外国人の支援では、一人ひとりが持つ文化的背景や在留資格などを理解しながら、継続的に個別に寄り添う必要があります。一方で、外国人を雇用する企業が全国で28万5千社に上るように、ステークホルダーが膨大で、非常に複雑な課題です。政府は自治体任せにするのではなく、自治体による支援の強化とNPOの強化を対として行う必要があると考えます。

 

休眠預金事業では、住友商事の社員が外国人の子どもへの学習支援や団体の広報支援をする取り組みも行われた

 

質疑応答

 

 

川北:地域共生プログラムについて伺います。外国にルーツを持つ方たち個人への支援から、外国人を支援できるコミュニティづくりへと、助成の対象をシフトしつつあるということでしょうか。

 

阿部:これまでも交流事業や学習教室は、各地で行われてきました。しかし今後、地域を超えて全国的なうねりにしていくことが大切だと考えています。三菱財団とともに助成活動をして見えたのが、地域の中で外国ルーツの皆さんが孤立している点でした。そこで地域交流プログラムを開始し、今後、都道府県共同募金会と連携してうねりを作っていきたいと考えています。

 

川北:行政を含む協働者間のコミュニティづくりの鍵は何でしょうか。

 

利根:個人的には、処方箋はないと思います。モデルの完全な横展開は難しく、各地が発信するモデルから、自分の地域で応用できる内容を取り入れていくしかないと考えています。一方、「国際交流」「多文化共生」といった言葉を使うと「外国人の問題」となり日本人が関わるハードルが上がることから、よりミクロな視点で「目の前の人と心地よく暮らしていくにはどうしたらいいか」を考えることから始める姿勢も大切ではないでしょうか。

 

川北:外国人の受け入れ体制を整えるうえで、現状を把握し改善点を明確にするためにアセスメントが欠かせないと思いますが、企業だけでなく、自治体にも必要だと考えます。いかがでしょうか。

 

毛受:多文化共生に関する指標を自治体ごとに点数化すると、選ばれる自治体を志向する意識につながるでしょう。近年、最も増加した在留資格は技能実習生でした。各地を訪問すると、「貧しい国から出稼ぎに来た若者たち」というイメージから、外国人に対する「上から目線」が強まった懸念があると聞きます。技能実習生は地場産業を担う存在です。自治体および国のトップが、外国人が日本にとってどういう存在か、方針を明確に発言する必要があります。

 

最後に今後の助成に関して、阿部氏は「小さくて良いので地域での交流の場作りから始めることは大事。それが誰ひとり取り残さない社会づくりにつながる」、利根氏は「仕組み化につながる事業に助成していく。現在の助成プログラムが長期的に続くかはわからないが、人の移動による社会構造の変化はすべての助成の前提にある」、毛受氏は「日本社会が外国人に支えられていることを日本人が知る必要がある。様々な切り口からこの問題を盛り上げていくことが不可欠」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子