【抄録】第3回《総括》今後に向けて備えるべきこと/日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー
2023.05.31
(公財)かめのり財団では、「日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー」の第3回「《総括》今後に向けて備えるべきこと」を、5月19日(金)、オンラインで開催しました。第1回、第2回の進行をご担当いただいた川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)からお話を伺いました。
第1回は、社会福祉を担当する方々から外国人支援の担当者に向けて、第2回は外国人支援を担当する方々から社会福祉の担当者に向けて、お話しいただきました。今回は当財団のアドバイザーでもある川北 秀人さんに総括としてのお話を伺います。ご参加の皆さまには、連続セミナーを通じて感じたことや、身の回りの課題をご共有いただきたいと思います。
本日は、連続セミナーを振り返り、今後に向けた課題を確認していきます。
本連続セミナーで「外国人と福祉」を取り上げた背景には、2022年12月〜2023年1月に開催した連続セミナー「国際交流の新局面 2022」での気づきがありました。
国際交流の新局面連続セミナー2022
第1回 地域における外国人のくらしの「これまで」と「これから」
第2回 地域における外国人の就労の「これまで」と「これから」
第3回 多文化共生を支援する 助成プログラムの「これまで」と「これから」
第4回 ≪総括≫経過と見通しから、学ぶべきこと・備えるべきこと
連続セミナー2022を通して、改めて、外国人の方が公的支援の外にあること、そして、福祉の担当者も外国人支援の担当者も、お互いのことを知らないということがわかりました。この課題を深掘りする必要があることから、「日本における外国人と福祉のこれまでとこれから」と題し、本連続セミナーを企画しました。
JICAの予測では、2040年までに、外国人は現在の300万人から674万人へと急激な増加が見込まれます。私の試算では、このうち都心部で増えるのは最大でも約50万人で、残る300万人以上は農山漁村部での増加でしょう。これが実現するためには、各地の農林水産、製造、介護などの現場において「働き続けやすさ改革」が求められます。そう考えると、これは多文化共生に限った課題ではなく、地域の持続可能性をいかに考え実現していくかという課題です。
「日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー」第1回は、外国人支援実務者が知っておくべき社会保障制度や、生活福祉資金の現状について教えていただきました。外国人支援の事例報告では、外国人自身を支援者として育成することの有効性についても伺いました。
第2回は、冒頭に外国人相談対応の「9つの基礎知識」について伺いました。また、あらゆる分野の初任者研修に多文化共生に関する基礎研修を入れていく大切さや、住民同士の接点づくりの重要性についても触れていただきました。
日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー
第2回 多文化共生時代の地域福祉・外国人相談対応への配慮事項
次に、今後の見通しを考えていきましょう。以下は、連続セミナー2022の最終回でもお示しした図です。1枚目の2015〜2020年と2枚目の2010〜2020年を比較すると、日本人が増えている都道府県は増え続け、減っているところは減り続けていることがわかります。外国人が増えているのは、多い順に、沖縄、熊本、北海道、埼玉、千葉、鹿児島、島根、宮崎、佐賀。こういった地域では、一次・二次産業に加えて介護の重要性も増しており、これらの分野に技能実習生が増えています。埼玉や千葉で外国人が増えているのは、東京などに商品を供給する食品加工工場なども雇用の場になっているからです。
市町村単位で見ていくと、外国人が増えているのは都市部ではなく、町や村であることがわかります。そのような地域では自治体単位の国際交流協会が存在しないため、都道府県の国際交流協会が地域に出向き、アウトリーチをしていく必要があります。「アウトリーチをしなくても、町村役場の職員がつないでくれる」と思うかもしれませんが、外国人当事者は、役場と接点を持つでしょうか。これからの国際交流協会にとって大切なのは、施設のカウンター内で相談者を待つのではなく、地域で説明会を開くなど、外に出て行くことです。また、これほどに日本人が減って外国人が増えていることを、市職員や市議会議員、市長は気づいていないかもしれません。国際交流協会がデータを把握し、伝えていってほしいと思います。
次に、就業構造を確認していきます。2000年と2020年の国勢調査を比較すると、就業者が最も減った業種は、製造、卸小売、建設(減少した人数が多い順)でした。3業種で700万人以上が減少しています。その約半分を吸収したのが、医療・福祉です。2000年は介護保険制度ができた年で、以降、介護事業所が増加したのです。
今後の20年間で、15歳以上の総人口は、1千万人以上減少します。働く人も500万人ほど減ると考えなければなりません。一方で、介護を必要とする人は倍増します。このような状況において、医療・福祉に従事する人を過去20年間のように増やすことは、不可能です。介護予防に取り組むと同時に、外国人の力を借りることが必要になります。前述の通り、JICA研究所の報告書では、2040年に約674万人の外国人材が必要だとされています。つまり今後、約350万人の外国人に来て働いてもらわないといけないのです。
しかし、外国人は日本に来てくれるでしょうか。日本経済研究センターによる報告書では、日本に出稼ぎに来ている方は、給料の5割以上を海外に仕送りしています。すなわち、母国の賃金が日本の賃金の5割に到達したら、日本で稼ぐメリットが消えてしまうのです。報告書は、アジア各国の賃金が日本の賃金の何%に当たるかを比較し、出稼ぎの「損益分岐点」を67%と設定したシナリオで分析。中国はすでにそのラインを超えており、各国とも2032〜35年にかけて近づいていきます。
今年4月に国立社会保障・人口問題研究所が発表した人口予測は、外国人が毎年18万人ずつ増えると想定していましたが、今のままでは難しいでしょう。外国人が働き続けたいと思える賃金水準、キャリアデザイン、子育て環境、教育へのアクセスなどを実現する、抜本的な取り組みが必要です。国は、制度を用意しています。地域が制度を使いこなせるかが問われています。
Q:町村部へのアウトリーチとは、どのように行うのでしょうか?
川北:異分野を例にすると、ひきこもりの若者へのアウトリーチは難しいことがご想像いただけると思います。その場合、アウトリーチの可能性が高いのは、ひきこもりからのサバイバーや、ひきこもっている人たちのネットコミュニティからのアプローチです。同様に、外国人へのアウトリーチは、外国人のコミュニティから紹介してもらうと、信頼されやすいでしょう。また、外国人が多く働く企業を特定できているなら雇い主に対して、業種が特定できているのなら組合に対して、アプローチすることもありえます。
Q:日本人住民の多文化共生に対する意識を、どのように醸成していくのが良いでしょうか?
川北:外国人との接点はどこか自分から遠いところで、いつか偶発的に起きるものではなく、すでに身近で日常的に起きているのだと見せていくことが大切です。例えば、災害時のための多言語ツールの存在がもっと知られると、外国人が身近に住んでいることが認識されます。市報に毎号、外国人のためのページをやさしい日本語で設けるのもよいでしょう。市職員の初任者研修で多文化共生を扱うことや、やさしい日本語の日常的な使用を増やしていくことを通じて、地域住民の意識醸成につながっていきます。
Q:アフターコロナの多文化共生はどのようになっていくでしょうか?
川北:外国人観光客が急激に戻り、技能実習生も戻り始めています。しかし、外国人の数が増え続けても、日本人が急に変わるわけではありません。国の施策としては、日本語学習の支援、ならびにコーディネーターの配置を推進していくことが求められます。より身近な施策としては、多言語表示を増やす、やさしい日本語の表示を広げるといった形で、多様な方々に対応できる状態を地域に作っていくことが大事です。
抄録執筆:近藤圭子