【抄録】第1回 高齢化『第2幕』と人口減少の推移をもとに、地域における今後の予測を立てるための基礎理解/高齢化・人口減少の加速化に備える持続可能な地域づくりと、 国際交流・多文化共生のこれから 連続セミナー2024

(公財)かめのり財団は、連続セミナー2024の第1回「高齢化『第2幕』と人口減少の推移をもとに、地域における今後の予測を立てるための基礎理解」を、2024年6月10日(月)、オンラインで開催しました。川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)をお迎えし、お話を伺いました。

 


主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 常務理事 西田 浩子

 

 かめのり財団は、2021年からオンライン連続セミナーを実施してきました。コロナ禍で人的交流ができなくなり、国際交流のパラダイムシフトが起きるという視点から始まったセミナーで、国際交流や外国人就労、助成のありかた、多文化共生と福祉などのテーマで、「これまで」と「これから」を考えてきました。今回は、高齢化と人口減少の観点から、全4回のセミナーを実施します。多文化共生に日頃から従事されている登壇者のお話が、皆さまのご参考になれば幸いです。

 

解説講義 川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)

 

 

 外国人との共生の必要性が高まっている理由について、地域のくらしの推移を文脈として踏まえてお話しします。

 

 私は約30年前から、市民団体のお手伝いをしてきましたが、2006年頃から、大都市でもボランティアが集まりにくくなってきたと感じました。同じ時期、私のもとには、人口減少が進む地域から、自治会・町内会の立て直しのご相談が届くようになりました。この2つに共通する背景は、「小家族化」です。

 

 2020年の全国の単身世帯比率は38%に上ります。自治会・町内会をはじめとする地域のさまざまな制度は、従来、世帯単位で役目を担うことを前提としています。これが、世帯が小さくなることで、負担が大きくなっているのです。都会でも農山漁村部でも、小家族化が進み、くらし方が変わったことで、地域の支え方も進化が求められています。

 

各都道府県における2010年~2020年の日本人・外国人の増減(国勢調査)。
横軸が日本人の増減、縦軸が外国人の増減、球の大きさは2020年の外国人数を示す

 

 国勢調査をもとに、2010年から2020年にかけての日本人と外国人の増減を都道府県単位で見ると、日本人の減少を外国人が補っている県(上図の赤い線の左上側)もあれば、日本人が減り外国人も来ていない県(同左下側)もあります。外国人増加が現在は平均値(赤い横線)より低い県でも、その必要性が低かったわけではなく、今後は増えていく可能性があり、受け入れ体制整備を進める必要があります。

 

 同様のグラフを市町村単位で作るとわかるのは、この10年間で外国人が急増したのは大都市ではなく、農山漁村部であることです。その多くには、国際交流協会はありません。つまり、外国人支援体制の整備は、市町村任せにするのではなく、都道府県や、県域の国際交流協会が主導する必要があります。国が作った施策を自治体が実行するためには、都道府県の役割が重要なのです。

 

2010年から2020年の外国人増加率が最も大きかったのは、北海道知内町。
2010年時点に外国人住民が0名だった市町村でも、1村を除き、2020年には外国人が居住

 

 「これまで」の地域と「これから」の地域は違います。延長線上で考えてはなりません。自治体は税収減のなか、「人の高齢化」と「インフラの高齢化」に同時に対応することが求められています。ところが、2005年からの10年で、市区町村の歳出は15%増加して仕事量が増える一方、職員の数は14%減少。自治体職員は10年間で3割忙しくなっており、その傾向が緩和される可能性は極めて低く、自治体行政は仕事の仕方の変化に迫られています。

 

人の高齢化、インフラの高齢化が同時に発生。その上、自治体は
業務増の中、職員減少。「延長線上」ではない仕事が求められる

 

 世界経済のパラダイムはこれまでとは異なります。1970年代のような感覚で「まだ大丈夫」「日本はすごい」などと言っているのではいけません。一つの指標として、人口千人当たりの車の保有台数を見ても、減少するのは主要国の中で日本だけです。

 

 国力を保つために外国人の力をいかに借りるかを、地域レベルで考える時代になっています。

 

千人当たりの自動車保有台数が減少するのは、高齢化と人口減少が進む日本のみ

 

 日本は、1970年に高齢化社会(注:65歳以上の高齢者が人口に占める比率が7%以上。国連・WHOの定義)に入り、すでに50年以上にわたって高齢化を経験してきました。しかし、「これまで」の高齢化と「これから」の高齢化は、質が違います。これまでは、65~75歳の前期高齢者を含む全年齢層で増えてきました。要介護3以上の人が少ない前期高齢者は、いわば「元気高齢者」。自治会長や民生委員などを担い、地域づくりの主役です。2015年以降はこの前期高齢者が減り始めており、一方、4人に1人が要介護3以上である85歳以上は、まだまだ増え続けます。

 

 加えて、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。これからは、前期高齢者を企業と地域で取り合う時代を迎えます。行政職員も減り続けているなか、地域の担い方を、根本的に変えていかなければなりません。外国人には仕事の担い手としてだけでなく、福祉や防災といったくらしの担い手としても活躍が期待されます。「この地域に長く住み続けたい」と外国人に思ってもらえる地域づくりを進めなければならないのです。

 

 2030年代の後半には、85歳以上の人口が1千万人を超えます。私の推計では2030~2040年にかけて、全世帯のうち6~7軒に1軒が、75歳以上の後期高齢者のみの世帯となります。民生委員だけの見守りだけでは、とても行き届きません。自治会・町内会の活動の基礎に、福祉や防災を置くことが、都心部でも必要な時代です。

 

2020年は約600万人だった85歳以上の人口が、2030年代後半には1000万人を超える

 

 2000年からの20年間で、15歳以上の数は変わらない中、働く人の数が1割近く減りました。減った業種は、製造業、卸小売業、建設業。増えた業種は、医療・福祉です。2000年に介護保険制度が、2001年に現在の障害者自立支援制度につながる制度ができ、医療・福祉の雇用が増えたのです。

 

 現在約600万人の85歳以上の高齢者が、1千万人を超え、介護需要が今より5割以上も増えたとき、介護で働く人を同じ分だけ増やせるでしょうか。介護予防に取り組むと同時に、介護で働く外国人の受け入れを進めていかなければなりません。そのためにも、介護を働きやすい職場にする必要があります。

 

 国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計は、2040年まで毎年16.3万人ずつ外国人が増える前提で予測していますが、これはかなり楽観的な数値だと言わざるを得ません。今回、私は日本に住む外国人の国籍別に年齢別人口構成の2040年までの推移予測を算出しました。人口が減り高齢化が進む国もあれば、若者が増加する国もあり、出身国によって人口構成に特徴があることがわかりますが、各国内で成長が続く一方で日本で停滞が続けば、日本は選ばれる国であり続けられるでしょうか。外国人に日本でくらし働き続けてもらうために、何ができるか。考えていくことが今まで以上に重要です。

 

日本で学び、くらし、働き続けてもらえるよう、外国人受け入れの体制整備が必要

 

質疑応答

 

Q:外国人は、経済的なインセンティブを求めて来日します。地域の担い手になろうとするインセンティブは何でしょうか。

 

川北:日本の若者が地域の担い手になるときのインセンティブと、同じと考えてよいと思います。つまり、子育てです。自分の子どもをコミュニティの一員にしたいと思えば、日本人の若者であれ、外国人であれ、地域の祭りへの参加や、登下校の見守りなどを通して、交流が生まれます。そのためには、地域が若者や外国人に対して、過去の慣例や先輩の考えを押し付け続けるのではなく、開かれた存在であることが大切です。

 

Q:1990年代以降に日本に出稼ぎに来た外国人の年金問題について、どう考えますか。

 

川北:日本人に対して社会保険未加入者への救済制度があるように、永住する外国人のうち一定の条件に適う方に対する制度を検討する余地はあると思います。子ども医療費無料が自治体施策として行われるように、自治体判断で行う可能性はあるのではないでしょうか。

 

Q:外国人のキャリア支援の必要性についてご意見をお聞かせください。

 

川北:キャリア支援の機会は必要ですが、効果的な手法はまだ見出されていません。ロールモデルを増やせるよう、少数の方に対してでもキャリア支援を続け、事例を蓄積していくしかないと考えます。一方、当事者が自身の限られた時間をリスキリングのために費やしたいと考えるとは限らず、キャリア支援を行う側とのずれを解消する工夫も必要です。

 

 最後に川北氏は「多文化共生は、外国人の問題ではなく、日本という国の問題。これまでとこれからがどう違うのかを念頭に、今後3回のセミナーを聞いてほしい」と話しました。

 

 

抄録執筆:近藤圭子