【抄録】第2回 働き続けやすさ・くらし続けやすさを確立するために、求められる取り組み・施策/多文化共生の転換期 連続セミナー2023

(公財)かめのり財団は、「多文化共生の転換期 連続セミナー」の第2回「働き続けやすさ・くらし続けやすさを確立するために、求められる取り組み・施策」を、2023年12月6日(水)、オンラインで開催しました。宍戸 健一氏(JP-MIRAI 理事/国際協力機構 理事長特別補佐)、増田 麻美子氏(文化庁 日本語教育調査官)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表)の進行で、お話を伺いました。

 


主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 常務理事 西田 浩子

 

 第2回は「働き続けやすさ・くらし続けやすさを確立するために、求められる取り組み・施策」と題し、お話を伺います。第1回は90名を超えるご参加があり、現場で活動する皆さまからたくさんのご質問やご意見をいただきました。本日も活発な意見交換ができればと思います。

 

進行 川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)

 

 第1回は、田村さん・鈴木さんから、多文化共生施策のこれまでとこれからについてのお話を伺いました。今回は、外国人の働き続けやすさ・くらし続けやすさの観点から、就労環境において人権を守っていくための取り組みと、日本でくらすうえで欠かせない日本語の教育について考えていきます。

 

講義 宍戸 健一氏(JP-MIRAI 理事/国際協力機構 理事長特別補佐)

 

 

 JICA研究所が2022年3月に発表した報告書は、日本の経済成長(年1.24%)を保つためには、2040年には約674万人の外国人材が必要になると予想しています。「選ばれる日本」「開かれた日本」となるための取り組みが必要です。

 

2040年には約674万人の外国人材が必要。ただし、コロナ禍の出生率低下を経て、状況がより深刻になっている可能性も

 

 私がアジア各国で聞くのは、日本に行くには資金が必要である、日本の賃金が高くない、日本語のハードルが高いといった指摘です。また日本国内では技能実習生の失踪が問題になっていますが、出身国ごとに失踪率は異なることから、送り出し時の状況や日本の労働環境が影響していると考えられ、詳細な分析と対応が必要です。

 

 今年発表された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告では、外国人の人権保護やキャリアアップが明確に掲げられました。これは、国内外に対する重要なメッセージだと言えます。今後の取り組みには行政、企業、市民社会の協働が欠かせず、またSNS等を活用した海外への情報発信も一層重要となるでしょう。

 

JP-MIRAIの活動の三本柱は、①外国人労働者との情報共有・共助、②「ビジネスと人権」における協働、③マルチステークホルダーによる学び合いと内外への発信。発信力を強化すべく外国人サポーター制度の導入等に新たに取り組んでいる

 

 JP-MIRAIは、日本が選ばれる国になっていくことを目指して立ち上げたプラットフォームで、現在680団体が参加しています。

 

 活動の三本柱の一つ目、「外国人労働者に対する情報提供」では外国人労働者へのリーチを強化しています。「JP-MIRAIポータル」では、外国人労働者に役立つ情報を掲載しており、海外での普及に力を入れています。「JP-MIRAIセーフティ」は、外国人自身が人権侵害をセルフチェックできるツールです。9言語に対応し、問題があれば相談窓口である「JP-MIRAIアシスト」につながります。

 

 「JP-MIRAIアシスト」は、21言語で対応する相談窓口です。パイロット事業として行った2022年度、相談の約3分の1が労働分野、3分の1が生活分野でした。本事業を通じては、1人の相談者が複数の課題を持ち、複雑な状況にあることも見えてきました。

 

JP-MIRAIアシストは、外国人労働者向けの多言語相談窓口。必要に応じ外部の支援団体と協力した伴走支援も行う

 

 活動の三本柱の二つ目、「ビジネスの人権における取り組み推進」では企業向けの取り組みをしています。「責任ある外国人労働者受け入れ企業協働プログラム」は、サプライチェーン内の外国人労働者を支援する仕組みで、参加企業は17社、対象となる外国人労働者は約1万1000人となっています。

 

 外国人労働者の人権問題解消には、中小企業での労働環境改善が欠かせません。一方で、リソースが限られる中小企業では独自の取り組みが難しいことから、現在、新たに中小企業向け動画教材の開発に取り組んでいます。また、日本に来る前の課題であるリクルートプロセスについても、手数料をゼロに近づけるための取り組みをしています。これからも様々な団体と連携し、活動を進めていきたいと考えています。

 

大企業によるCSR監査は中小企業まで及ばないが、外国人労働者の人権問題解消には、中小企業の労働環境改善こそ重要。教材を開発し、中小企業への普及を目指している

 

講義 増田 麻美子氏(文化庁 日本語教育調査官)

 

 

 日本国内では約28万人(2019年度に過去最高を記録。2022年度は約22万人)が日本語を学習しています。留学生、就労者、生活者にかかわらず、日本語教育の環境整備は大きな課題です。日本語教育機関の量の確保と同時に、質の確保の必要性も指摘されてきました。

 

国内の日本語学習者数は増加傾向。日本語教育の環境整備が喫緊の課題となっている

 

 2019年に日本語教育推進法が成立、2020年に日本語教育推進の基本方針が閣議決定され、日本語教育の制度が動き始めています。

 

 基本方針のポイントの一つが、日本語能力のレベルについて言及されたことでした。基本方針には、「『自立した言語使用者』として日本社会で生活していく上で必要となる日本語能力を身に付け、教育・就労・生活の場でより円滑に意思疎通できるようになることを目指し」、日本語教育環境を整備するとあります。

 

 日本語能力について国内外共通のフレームワークが求められていることから、2021年には「日本語教育の参照枠」を文化審議会が取りまとめました。前述の「自立した言語使用者」とは、6つに分けたレベルのうち「B1」のレベルに相当します。

 

国際通用性の高い指標が必要であることから、「日本語教育の参照枠」が取りまとめられた

 

日本語教育推進のための基本方針で示された「自立した言語使用者」とは、B1を指す

 

 2023年には日本語教育機関認定法が成立しました。この法律には2つの柱があります。①日本語教育機関の認定制度の創設、②認定日本語教育機関の教員の資格の創設です。

 

 国(文部科学省)は日本語教育機関を審査し認定を行います。認定後も実地調査等により、教育の質を担保する計画です。国家資格となる「登録日本語教員」は、年齢、国籍、母語を要件としておらず、ノンネイティブの日本語教師も増やしていきたいと考えています。

 

 また国内外に対し、日本語教育機関の情報を多言語のウェブサイトで発信します。認定日本語教育機関や登録日本語教員の情報、日本語教師の指定養成機関等の情報を公開し、日本語学習者、日本語教師を目指す方、地方公共団体、企業の方等に利用していただける環境を創出します。

 

 2022年に文化審議会国語分科会が発表した「地域における日本語教育の在り方について」では、地方公共団体の日本語教育施策の整備・充実に向けた取り組みについて、期待される方向性を示しました。プログラムの内容・方法・学習時間の目安を提示しており、ご参照いただければと思います。

 

2024年4月施行の新制度で、教育の質の担保のための仕組み、学習者・自治体・企業等が日本語教育機関選択のための情報を得る仕組み等が設けられる

 

質疑応答

 

川北:中小企業の取り組みを促すのには難しさがあります。ハラスメント対策のように、全事業者を対象とした法的義務が設けられたとしても、日本では徹底は困難と言わざるを得ません。中小企業の取り組みを促すには、業種別の特性を加味した「誉める」しくみも必要ではないでしょうか。

 

宍戸:公共調達の加点対象とするなどインセンティブがあるとよいのですが、現時点では政府・地方自治体ともにその対応は難しく、いかに推奨するかは大きな課題です。JP-MIRAIでは労働環境の改善に取り組んだ中小企業を認証する仕組みも検討しましたが、ある一時点での評価を行うよりプロセスの評価が重要であると考え、教材の開発に取り組んでいます。

 

川北:外国人がくらし働き続けるために必要な日本語の内容は、業種や地域によって異なります。日本語教育の質の高さとは、全国一律に決められるものではなく、その方の日常生活の利便性向上に寄与できるかどうかではないでしょうか。

 

増田:先進的な日本語教育機関はすでに、業種別・職種別の日本語教育プログラムを持っています。ただ、現状ではどこの機関が実施しているのかがわかりづらいため、認定制度を通じて可視化し発信していきます。また、2020年に厚労省が「就労場面で必要な日本語能力の目標設定ツール(就労Can doリスト)」を作成しており、ご活用いただきたいと考えています。

 

最後に増田氏は「現場の方々と一緒に新制度を良いものにしていきたい。日本語教育機関と日本語教師がインフラとして機能するよう力を入れる」、宍戸氏は「民間でメカニズムを作り、環境改善につなげていきたい。多くの方にJP-MIRAIにご参加いただきたい」、川北氏は「お二人の話に共通するのは、マネジメントシステムの必要性。『続けられるか』に焦点を当てた仕組みづくりが重要」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子